「ぐるっとパス」が1月25日に切れてしまう!
もともと別の美術館に行こうと考えていたのだけど、そう気づいて急遽1月22日(日)は永青文庫と五島美術館に行くことにしました。
※永青文庫と五島美術館は「ぐるっとパス」を使えば展覧会の入場料が無料になります
まずは、午前中に行った永青文庫の「揃い踏み 細川の名刀たち」展のレビューをお届けします。
細川護立の刀剣愛がすさまじい!
永青文庫の創設者である細川護立は刀剣コレクターでもあり、その刀剣への情熱がすさまじい。
永青文庫の設立者・細川護立(もりたつ)(1883 ~ 1970)は、禅僧の書画や近代絵画、東洋美術のみならず、稀代の刀剣コレクターとしても知られます。護立が刀の世界に本格的に足を踏み入れたのは、学習院中等学科在学中、肋膜炎にかかり休学していた十代の頃。細川侯爵家に「御刀掛(おかたながかり)」として出入りしていた肥後金工師の末裔・西垣四郎作(にしがきしろさく)や、刀剣愛好家でもあった細川家の家政所職員らとともに開いた研究会で刀剣の目利きを学び、審美眼を磨いていきました。
展覧会HPより
審美眼を養うのに一流の人が周囲にいるという恵まれた環境とはいえ、中学生で刀剣に魅せられてそのまま生涯かけてコレクションを築いていくとは。。。
展覧会では、それぞれの蒐集エピソードや、刀に対する護立の言葉なども紹介されており、中には中学生の時に母親に懇願して買ったものもあったりと、凡人には理解できない仰天エピソードも!
『刀剣乱舞』でもおなじみ!「歌仙兼定」&「古今伝授の太刀」
何を隠そう、私も元・審神者でした(「審神者」とはゲーム『刀剣乱舞』におけるプレーヤー自身の呼称)。もっぱらゲームだけで、2.5次元などには手を出さずにいた審神者で、推しは「日本号」。ただ、2021年後半から『ゴールデンカムイ』にドはまりして以来、『刀剣乱舞』の方がすっかりご無沙汰だったのだけど、「歌仙兼定」はもちろん「古今伝授の太刀」と「地蔵行平」(のキャラ)は知っています!
…私のとうらぶ歴はおいといて、その細川家が持つ名宝「歌仙兼定」と「古今伝授の太刀」が本展では展示されています。
「歌仙兼定」
「三十六歌仙」に由来して「歌仙兼定」と呼ばれる…と説明されたら、なんとも典雅な趣に聞こえるが、「36人もの人を斬った」と伝わることから「三十六歌仙」になぞらえて命名されたと知れば、途端に恐ろしくなる「歌仙兼定」。
ゲームでは風流を愛する趣味人で、どちらかというと優男的なキャラクターですが、実際の刀は割としっかりとした姿。片手でも扱いやすいようにと刀身が短めで、反りが先の方についているということで、「36人斬り」エピソードを持つのも頷ける質実剛健さがありました。
刀に対してこんな感想を持つのも変なのだけど、そうした刀としての実用性を持ちながらも、どこか「爽やか」。
「古今伝授の太刀」
ゲームでは実はあまり「古今伝授の太刀」のビジュアルは好きになれなかったのですが、本物の刀身を見て、「なるほど、これはあのキャラ造形になるのわかる!!!」ってなりました。
しだれ柳のようにゆらりと細く長い刀身。長い太刀は他にもあるでしょうが、パッと見た時の第一印象が、本当にちょっと幽霊のような妖しくフゥ~っと現れてくるかのようで、ゲームのキャラ造形でもどこか実在感の薄い感じになっているのに納得してしまいました。
…ついついゲームの話になってしまった(笑)。しかし、本当にあれだけ細身の刀身は見たことがなかったので、その造形に一種異様な雰囲気を感じてしまった。
護立も当時1万34金(公務員の初任給が75円の頃)で買い戻し、細川家へ戻ってきたとのこと。「古今伝授の太刀」のことを知って以来40年越しの悲願達成だったという。
刀身だけが刀剣の美ではない!金工家による超絶技巧
実はこの展覧会を見に行こうと思った直接的な理由は、刀剣乱舞ではなく「鍔」が見たかったから。
というのも、前日に茶道の稽古場での初釜茶会に参加した際、茶道の先生が懇意にしている茶杓の先生が、鉄肌を学ぶ一環として刀の鍔を集め「良い鉄とはどんなものか」を見ているという話を聞いたのだ。
茶道の世界を極めるのに、武士が持つ刀から学ぶとは…。思いがけない接点に目から鱗で、ちょうどその刀の鍔が展示されているというので、俄然興味が湧いたのだ。
鍔に宿る武士の”美学”
今の私に刀の鍔から「良い鉄」が分かる審美眼はないけれども、最高水準の鍔が展示されているというのなら、これはもう見るしかない。
肥後の金工には主に「林派」「平田派」「西垣派」「志水派」という4つの流派があり、展覧会ではそれらの作品を観ることができる。とくに「林派」は、加藤清正が肥後に移った時に、清正に従って肥後へと移り、加藤家が改易した後に細川家に仕えたのだとか。
武士の栄枯盛衰と共に刀剣も流れていくことはイメージできるが、なるほどその刀を作る職人もその流れに影響されるのは必定。
まるでそのことを象徴するかのように展示されている作品には、桜と壊れた扇が表された「桜に破扇図鍔」がある。実際に刀に装着されていたのかどうかは解説には書かれていなかったので不明だが、人を斬る刀剣の装飾にこうしたモチーフをちりばめるのには、「散ることの美学(あるいは無常)」が込められているのだろうと想像する。
個人的には、西垣永久(二代勘四郎)の「田毎の月図鍔」が素敵でした!4つの色で区画された田んぼを塗分け、それぞれに金で苗と水に移った三日月を表した作品。モダンでもあり田園風景ののどかさもある味わいでした。
まさかの茶道つながり!ーー在野の金工の”迷”品!?
展示構成は、「第1章 揃い踏み細川護立心酔の刀剣」「第2章 肥後金工の名品揃い踏み!」「第3章 武家の格式 後藤家による刀剣金具」「第4章 在野の金工・町彫の逸品」という4章立てになっている。
1章から「刀剣」「鍔」「三所(目貫・笄・小柄)」と分野別になりつつ、ゆるやかに「大名の世界」から「在野」へと移行している感じがあり、展示の最後はその在野の金工家・彫刻家らによる刀身装飾を見ていく。
3章で紹介されている後藤家は、織田・豊臣・徳川に仕えた抱え工の家系で、まさに最高ランク。武家の式正(しきじょう)という最も格式ある場では、拵えは後藤家でなければいけなかったとのこと。
しかしそれ故に創作には様々な制約もあったとのことですが、一方で在野の職人にはそうした制約がないため自由な発想で面白い趣向の刀身装飾をつくっていたのだそう。
その最たる例が、土屋安親の「茶杓筒小柄」。茶杓ならまだしも、それを入れる筒の形を小柄で再現するってどういうこと!!??作品は小堀遠州の「青苔」(畠山記念館蔵)という茶杓の”筒”の方を再現している。
※下記の記事では「青苔」の茶杓と筒の写真が掲載されています(今回重要なのは茶杓ではなく”筒”です(笑))。
目を奪われるような格調高いものから、ちょっとクスッとしてしまうようなほっこりとした味わい深いものまで…名刀の美しさと、その名刀を保護し、さらにその魅力を引き立てる刀身装飾。
細川護立という稀代のコレクターの眼を通して、刀に宿る武士の美学と、職人の美への飽くなき追求を感じることができる展覧会です。
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