「shiseido art egg」とは
資生堂ギャラリーでは、2006年より公募プログラム「shiseido art egg」を開催しており、新進アーティストによる「新しい美の発見と創造」を応援する取り組みを続けています。
第16回となる今回は、岡ともみ、YU SORA、佐藤壮馬の3人が入賞し、今年の1月より順次展示が開催されています。
YU SORA(ユ ソラ)とは
私が訪れた3月21日は、YU SORAというアーティストの展示「もずく、たまご」展が開催中でした。
展覧会レビュー
現代の「繍仏画」ーー日常を縫う
「これは現代の繡仏だ!」
真っ先にそう思った。刺繍によって仏像を表す繡仏画は、その緻密で気の遠くなるほど地道な作業ゆえに祈りの強さ、仏教への敬虔さが感じられるが、YU SORAの作品にもそれと似た感覚を覚えた。
繡仏画ほど緻密ではないので、一心に祈るという強さはないが、ふんわりとした柔らかい白の布地と、シンプルな黒い線で表された日用品の数々からは、当たり前のようにある「日常(日用品)」が、いかに脆く儚いものであるかを感じさせる。そしてそのことが、翻って尊さにつながるのだ。
特に会場で一番大きく展示されている3点(「あの時の」「お掃除」「机の下」)は、他の作品と異なり、白い布に白い糸でそれぞれモチーフが表されているのだが、黒糸による作品よりさらに儚さが増し、それは3幅対の宗教画のようでもあった。
日常を際立たせるーー輪郭をなぞる
繡仏的というソフト面(文脈として)の興味のほか、ハード面(表面・表現方法)で興味深かったのが、白い布と黒い糸という極端にそぎ落とされた素材・色によって、モノの輪郭線が強調されている点だ。
テーブル、皿、棚、ベッド、本…どれも知っている物ばかりなはずなのに、「ベッドってこういう形だったんだ」「そうか、テーブルってこういう物だったな」と、初めて知るかのような新鮮さを感じた。実際には、それらの日用品(に限らずあらゆる物)は様々な色彩や柄で覆われている。
そう思うと、普段私たちは物を識別する時に「形」ではなく、色彩の「差異」を見ているにすぎないのだろうかと思った。
他愛ないものを、手間のかかる表現で表すことで、その「他愛なさ」の尊さに気づく。現代において生きることの意味、かけがえのないものは何かを考えるきっかけになる展示だ。
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