「shiseido art egg」(YU SORA)@資生堂ギャラリー

美術

「shiseido art egg」とは

資生堂ギャラリーでは、2006年より公募プログラム「shiseido art egg」を開催しており、新進アーティストによる「新しい美の発見と創造」を応援する取り組みを続けています。

第16回となる今回は、岡ともみ、YU SORA、佐藤壮馬の3人が入賞し、今年の1月より順次展示が開催されています。

YU SORA(ユ ソラ)とは

私が訪れた3月21日は、YU SORAというアーティストの展示「もずく、たまご」展が開催中でした。

会場風景より

YU SORA(ユ ソラ)(1987-)
韓国生まれ。2011年に弘益大学(Hongik University,韓国)彫塑科を卒業し、2020年に東京藝術大学大学院美術研究科 彫刻専攻修士課程を修了。白布と黒糸を使った刺繍の平面作品や家具などを実物大で作るインスタレーション作品を発表する。

展覧会レビュー

現代の「繍仏画」ーー日常を縫う

「これは現代の繡仏だ!」

真っ先にそう思った。刺繍によって仏像を表す繡仏画は、その緻密で気の遠くなるほど地道な作業ゆえに祈りの強さ、仏教への敬虔さが感じられるが、YU SORAの作品にもそれと似た感覚を覚えた。

繡仏画ほど緻密ではないので、一心に祈るという強さはないが、ふんわりとした柔らかい白の布地と、シンプルな黒い線で表された日用品の数々からは、当たり前のようにある「日常(日用品)」が、いかに脆く儚いものであるかを感じさせる。そしてそのことが、翻って尊さにつながるのだ。

左から「あの時の」「お掃除」「机の下」

特に会場で一番大きく展示されている3点(「あの時の」「お掃除」「机の下」)は、他の作品と異なり、白い布に白い糸でそれぞれモチーフが表されているのだが、黒糸による作品よりさらに儚さが増し、それは3幅対の宗教画のようでもあった。

展覧会のタイトル「もずく、たまご」は、とある日のコンビニのレシートから取られている。

日常を際立たせるーー輪郭をなぞる

繡仏的というソフト面(文脈として)の興味のほか、ハード面(表面・表現方法)で興味深かったのが、白い布と黒い糸という極端にそぎ落とされた素材・色によって、モノの輪郭線が強調されている点だ。

テーブル、皿、棚、ベッド、本…どれも知っている物ばかりなはずなのに、「ベッドってこういう形だったんだ」「そうか、テーブルってこういう物だったな」と、初めて知るかのような新鮮さを感じた。実際には、それらの日用品(に限らずあらゆる物)は様々な色彩や柄で覆われている。

そう思うと、普段私たちは物を識別する時に「形」ではなく、色彩の「差異」を見ているにすぎないのだろうかと思った。

他愛ないものを、手間のかかる表現で表すことで、その「他愛なさ」の尊さに気づく。現代において生きることの意味、かけがえのないものは何かを考えるきっかけになる展示だ。

展覧会概要

「shiseido art egg」

会期:YU SORA  展    2023年3月7日~ 4月9日
   佐藤 壮馬  展     2023年4月18日~ 5月21日
会場:資生堂ギャラリー(銀座)
入場料:無料
展覧会HP:https://gallery.shiseido.com/jp/exhibition/

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