東京・立川で開催されているjunaida展「IMAGINARIUM」展に行ってきました。実は私、恥ずかしながらこの方を全く知らなかったのですが、私の最大の推し・s**t kingzのNOPPOさんがファンサイトの動画でお勧めしていたので、興味を持って行ってきました。
展覧会概要
PLAY! MUSEUMは「絵と言葉」をコンセプトにした美術館で、特に絵本を中心に展覧会を企画し、子供から大人まで、直感的にその絵本の世界を体験することができる美術館です。
絵本『の』の主人公になって、展覧会を見よう
入り口前のロッカーでは、絵本『の』の主人公の女の子をになれる赤いコートと黒い帽子の貸し出しを行っています(コートは子供サイズのみ)。絵本に登場する女の子になって展覧会を楽しむことができるなんて、絵本ファンの子には最高にうれしい演出。展示室の扉を開く前からワクワクさせてくれます。
大人は帽子のみ貸出OKだったので、記念に入り口前の撮影スポットで記念撮影(入り口のスタッフさんが撮ってくれました)!本当はこのまま帽子を被って中に入りたかったけど、もし後から来た子供たちが「帽子がない」と泣いたらいけないので、撮影後は帽子を返却。
いざ、junaidaの世界へ。
第1章「交錯の回廊」
第1章、交錯の回廊では、緩やかにカーブした壁面に、約50点の初期作品が展示されています。街や船、サーカスなど、1つの汽車の車両として描かれているファンタジックな『TRAINとRAINとRAINBOW』や、さまざまな家の在り方を描いた『HOME』などが展示。
初めてjunaidaの世界に触れたけど、この緻密さに圧倒されます。「主人公不在」というか、どこを切り取っても、何か素敵な物語が始まるような濃密さ。
『怪物園』を題材にしたアニメーションが秀逸
個人的に「おぉぉ」となったのが、絵本『怪物園』を題材にしたアニメーション。怪物園を抜け出した怪物たちの行進を描いた作品さながらに、暗闇の中を怪物たちが歩いています。
このアニメーション、何が秀逸かというと、怪物の行列の影と鑑賞者の影が徐々に融合していく仕掛けになっている点です。まるで私たち人間が夜になると怪物に姿を変えて行列しているような、そんな錯覚に陥ります。
第2章「浮遊の宮殿」
交錯の回廊を抜けると、メイン展示室となる大空間に出ます。このエリアを「富裕の宮殿」と名付け、代表作『の』や『Michi』、『怪物園』『街どろぼう』などの絵本作品の原画、約110点、そして本展のための描き下ろし作品が展示されています。
宮殿風に設えられた空間の中でもっとも広くスペースを割いて展示されているのが、展覧会のタイトル「IMAGINARIUM」をイメージした描き下ろしの3連作。junaidaの空想世界を象徴する3人の子供たちの後ろ姿は、静謐で厳かささえ感じます。
代表作、絵本『の』のラストに衝撃!
※ここでは絵本の内容にも触れているので「知りたくない」という人は飛ばしてください。
『の』(福音館書店)は原画全点が展示されています。この本は「わたし”の”、お気に入りのコート”の”、ポケットの中のお城”の”・・・・」と「の」でつなげることでページをめくるごとに思いがけない展開へと発展していくストーリー。
「〇〇の〇〇の・・・・」と物(言葉)と物(言葉)の間にさりげなく存在する「の」。「の」があれば、どんな物でもつなげてしまう魔法のような1文字。文章を書く人間にとっては、注意しないと「の」でつなぎ過ぎて読みづらい文章になってしまう危険な存在(笑)
そんな「の」。これはjunaidaの世界と最も親和性の高いテーマだと思いました。第1章の「交錯の回廊」での作品からも既に感じたように、汽車の上に街や船を乗せてしまう発想。実際の物体の縮尺を自由自在に変える(大きい物を小さく、小さい物を大きく描く)ミクロとマクロの視点を行ったり来たりするようなjunaidaの世界。それと”なんでもつなげてしまう「の」”。最高の掛け算だ。
ポケットの中にお城というところから、どんどんと不思議な世界が「の」でつながって目くるめく展開されていきます。
そうして最後に向かって最初とは別の女の子が出てくる。そしてその女の子”の”、お気に入りのコート”の”、ポケットの中”の”…
「わたし」
このラストには驚いた!最初、この物語の主人公であり、「の」でつながっていたあらゆる世界の出発点にいたはずの少女でさえ、「〇〇の」存在であったことに。
このラストを知ってもう一度最初の絵を見てほしい。
たしかに最初の女の子の背景がモスグリーン色なのだ。赤いコートの女の子がモスグリーンのコートのポケットの中にいることが既に描かれていた!!!なんという伏線回収!!!!
第3章「残像の画廊」
第3章では企業の広告ポスターや本の装丁、作家がライフワークとして宮沢賢治の文章からインスピレーションを得て描く「IHATOVO」シリーズなど約150点を展示しています。
西洋美術からの影響も感じられるイラスト
私がこのセクションで気になったのは、junaidaの独自の世界観の中には、西洋美術の古典作品へのオマージュが感じられる作品がいくつか見受けられたこと。古典作品のイメージや様式を踏襲し、そこからさらにjunaidaの世界観に置き換えている点が興味深い。
ダ・ヴィンチの人体図
ルネサンス期の肖像画
こちらは、女性の横顔を描いた作品。しかし、よく見たら女性の顔はすっぱり期に取られており、後頭部には羊の頭が…。しかも不敵な笑みを浮かべている様子。こうした横向きの肖像画はルネサンスの頃の様式としてよく見られる構図です。肖像画という「表の顔」を描く様式を踏襲して、人間の「表と裏」の顔を表現している点が興味深い作品。
ルネ・マグリット
この作品に限らず、junaidaの世界は全体的にマグリットと通じる部分があります。巨大な意思が浮いてたり、ハトのシルエットの中に空が描かれていたりと、モチーフの大小、重力、ものとものの関係を逆転させたりするマグリット。そんなシュルレアリスム的な傾向はjunaidaの作品にも垣間見れます。
junaidaの描く空想世界が、ファンタジックだけれもどこか冷ややかだったり、不穏さを湛えているのも、こうしたマグリット的不条理さが根底にあるのだろうと思われます。
エッシャー
絵本『Michi』の極限まで緻密に描いた建造物の志向は、エッシャーの作品を彷彿とさせます。特に上の画像の作品は明らかにエッシャーの作品を踏襲しているでしょう。
絵本『の』の物語自体、メビウスの輪のように、始まりと終わりがつながって延々とその間をループする構造になっているのも、エッシャーのだまし絵的な世界観と通じると言えます。
「愛らしい」世界の海に垂らす1滴の「不穏」
展覧会に展示されている多くの作品は、可愛らしい登場人物たちと、カラフルでオシャレな建造物で埋め尽くされている愛らしい作品です。そうした「かわいい」の世界に身を委ねていると、時々ドキッとするような不穏な影が足音も立てずに、自分のすぐそばにピタッとついてくる。そんな作品が紛れています。
「愛らしさ」が詰まった海の中に、1滴の不穏なしずくを垂らすーーそんなイメージ。その不穏さはとは、「死」なのか「孤独」なのか「異界の者」のせいなのか…それを知りたくて、どんどんのめりこんでしまう。
カフェでもjunaidaの世界が楽しもう♪
カフェでは展覧会特別ランチ&スイーツも大充実!私はちょうどお昼時だったので、『の』の女の子の帽子をイメージしたハンバーグランチ(1,800円)を注文。ほかにもサンドイッチセットやパフェもあります。
カフェの詳しいメニューについてはこちら。
さいごに
展覧会を訪れるまで全く知らなかった作家でしたが、展示室に一歩入った瞬間から引き込まれてしまって、出る頃にはファンになってしまいました。絵本はもちろん、junaida画の装丁しばりで展覧会でも紹介されていた本を読むのも良いなと思った次第。
ページをめくるごとに、あっと驚く、不思議で、可愛くって、ちょっと怖い時もある、魅力的な世界へ連れて行ってくれるjunaidaの世界。ぜひそのめくるめく世界に迷い込んでほしい。
本展の図録はオンラインでも購入可能。
展覧会でも紹介されていたjunaidaが装丁を手掛けた書籍を一部紹介します。
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