松の内も過ぎた1月15日。「お正月」という気分はさすがに抜けたけど、まだまだ新年のめでたい気分は味わいたい。
ということで、この日は根津美術館の「遊びの美」展とサントリー美術館の「智積院の名宝」展の2つをはしごしてきました。
「遊びの美」@根津美術館
蹴鞠をする公家の姿が印象的な展覧会のポスター。雅やかな風情と楽しそうな雰囲気があいまって、正月明けのこの時期に見るのにピッタリな感じ。
みやび、勇ましい、賑々しいーー公家・武家・庶民の「あそび」が集結
本展では、展覧会のタイトルの通り、ずばり「遊び」をテーマにしています。といっても子供の頃にしていたような「遊び」だけではありません。一口に「遊び」と言っても、公家、武家、庶民にとって、遊戯のジャンルは様々ですし、そうした遊びに興じる”目的”も違います。
例えば公家にとっての遊びとは、「教養」でもあると言えます。それを象徴するのが「歌合(うたあわせ)」。参加者が左・右に分かれてそれぞれ和歌を詠み、その優劣を競う”遊び”です。こうした会を催すことで、和歌を詠む技術とセンスを磨くのですね。
ちなみに、下記の動画の解説では「貴族の遊びといえば」の代表格「蹴鞠」についても解説されています。桜の木は単に華やかな画面にするための装置ではなく、フィールドの四隅を表す柱の役割もあるんですね!!
動画を見ると、桜の作品の中で桜の木の位置がちょうど屏風の折り目のところに描かれているので、3Dのように奥行きが感じられます。そうした3D効果を狙った構図になっているところにも注目です!
一方、武家の世では「犬追物」や「巻狩」といった武芸で”遊び”ます。遊びと言っても、これらは戦のための鍛錬でもあります。
「犬追物図」の屏風では、中心に描かれている人物はもちろん、周囲を囲む武士たちの姿もりりしくってかっこいい!!
庶民の”遊び”として本展で紹介されているのは「祭礼」。京都なら祇園祭、江戸なら神田祭や山王祭のように、年に1度の祭りに庶民は並々ならぬ情熱を注ぎ、人々は熱狂します。あるいは遊郭などの「邸内画」では、囲碁(双六)、三味線などで、まさに”遊興に耽る”様子も描かれています。
2階の茶道具の展示室では「除夜の茶会」
根津美術館では、特別展のほかにも、2階で「青銅器」「書画/工芸」「茶道具」というテーマで、毎回様々な展示を見ることができます。
私は茶道を習っているので、この2階の茶道具の展示は特に注目しています。毎回季節に合わせたテーマで趣向の凝らした道具の取り合わせを観ることができて、まるでお茶会に招かれた気分を味わえます。
今回のテーマは「除夜の茶会」。歳末の気忙しい中でも、ゆっくりと1年を振り返り、新しい年を迎えるための穏やかな時間を過ごす茶会では、「暦茶碗」で1年に思いを巡らせるような道具であったり、雪や冬の静けさを思わせるお道具などをとりあわせます。
私が気になったのは、楽導入の黒楽茶碗「雪峰」。光沢のある釉薬が器の全体にかかった黒楽がどうして「雪峰」なのかな?と不思議に思ったのですが、…もしかしたら光の反射で、角度によっては器の下側が白っぽくなるのを雪山に見立てたのでは!?確証はないですが、銘から道具の味わいを探るのが楽しい。
美術館は冬の装いー庭園やエントランスにわらぼっち
美術館のエントランスと庭園では、冬の風物詩である「わらぼっち」が、来場者を迎えてくれています。
展覧会概要
「智積院の名宝」@サントリー美術館
お昼ご飯のあとは、六本木に移動して、サントリー美術館へ。ずっと「行こう行こう」と思っていた智積院展をようやく訪問。日曜の午後ということもあって、エントランスはそこそこの人だかり。
何と言ってもこれ!長谷川等伯「楓図」&長谷川久蔵「桜図」
京都・智積院に伝わる仏画・名品を展示する本展ですが、まあ何と言っても、長谷川等伯・久蔵親子による「楓図」「桜図」でしょう。もう「これを見に来た」と言っても過言ではない。
展覧会では、この2点のほかにも「松に秋草図」など、長谷川等伯一門が手掛けた金碧障壁画の一部が展示されています。メインとなる作品だけでなく、等伯一門が創り出した空間全体を「再現」とまでは言えませんが、その全体像をイメージできるように構成されています。
とはいえ、やはり「桜図」と「楓図」は別格の美しさ!!!
秀吉の息子・鶴松(棄丸)がわずか3歳で亡くなったことから、その菩提を弔うために建てられた祥雲禅寺。その内装として絢爛にして優美な満開の桜と楓の取り合わせに、深い趣を感じさせます。
等伯の息子で、次の棟梁と期待された久蔵の「桜図」。金雲に覆われた画面の中で、胡粉によって立体的に表された桜の花びらが存在感を放っています。この絵が完成した翌年、久蔵は26歳という若さで亡くなります。
等伯の「楓図」は、ライバルであった狩野永徳が得意とした、画面を横切る大きな樹木という構図を用いながらも、青紅葉から次第に赤く色づく様子を繊細に描き、楓の太い幹の傍では、小さな秋草が揺れています。
長谷川等伯について知りたい方には、こちらの書籍がおすすめ。
等伯の生涯は小説にもなっているので、小説が好きな方にはこちらもおすすめ。
思いがけない出会い!堂本印象の「松桜柳図」屏風と「婦女喫茶図」
本展のハイライトは等伯・久蔵の作品だけだと思っていたのですが、意外にも吹き抜けエリアで展示されていた近代の作品が面白かった。
特に堂本印象の2つの襖絵。個人的に近代の作品はそれほど詳しくないので、これまであまり意識してこなかった堂本印象。しかし、本展でみた「松桜柳図」がとっても素敵!!
一目見てわかるように、明らかに桃山時代の金碧障壁画の構図(大木が画面を横切る構図)を踏襲しつつも、単純化された松の葉や明るく輝くような色彩はしっかりと”モダン”。「古典」と「(当時における)最新」が見事に調和しています。
一方の「婦女喫茶図」は、モチーフからして「古典」と「現代」が対比されています。着物を着て茶道具で抹茶を立てる女性と、洋装で紅茶かコーヒーだろうかお茶をする二人の女性が描かれています。
斬新なテーマと描写は、当時から話題になっていたとのこと。私自身が茶道をしているので、このテーマには親近感が湧いて面白いと思うのですが、そうでなかったらちょっと斬新すぎて「えっ?歴史あるお寺でこんなに斬新でいいの?」と困惑してしまいそうですが、そうした作品を受け入れる智積院の懐の深さというか、その時代時代の「美」を受け入れる姿勢というのが感じられます。
音声ガイドもおススメ!
本展の音声ガイドは、『鎌倉殿の13人』の大江広元役で存在感を放っていた、俳優の栗原英雄さんがナレーションを勤めています。
思わず「大江殿…!!!」と呟きたくなる、あのお声で、智積院の歴史や名品の美について語ってくれます。
個人的に残念だったのは、展示作品の中に「一ノ谷合戦図屏風」があったのに、それに音声ガイドがついていなかったのがもったいなさ過ぎて…。大江殿に、鵯越とか語ってもらいたかったよ。
展覧会概要
サントリー美術館は基本的に予約不要ですが、人気の展覧会なので窓口でチケットを買うのに並ぶ可能性があるので、オンラインで事前購入することも可能です。
1月15日に行った際は、行列ができるというほどではないですが、エレベーター街で少しエントランスが混んでました。閉幕に向けてさらに混んでくると思いますので、事前予約ができる方は予約してから行くのがストレスフリーかも。
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