【展覧会レビュー】「佐藤忠良展」@神奈川県立近代美術館葉山

美術

先日、取材に行った「佐藤忠良展」@神奈川県立近代美術館葉山の記事が公開されました。

3つの傑作と愛蔵コレクションで織りなす彫刻家 佐藤忠良の世界
3つの傑作と愛蔵コレクションで織りなす彫刻家 佐藤忠良の世界。「生誕110年 傑作誕生 佐藤忠良」展が神奈川県立近代美術館 葉山にて開催中

展覧会の概要やみどころは上記の記事をお読みいただければと思いますが、このブログでは、記事には書いていない個人的な感想を補足として綴ります。

チラシは永久保存版!佐々木香輔氏の写真に一目ぼれ

まずは本展のチラシを見てほしい。

左の麦わら帽子を被った女性の座像は忠良の代表作《帽子・夏》で、この作品のことは知っていたのですが、右の作品は初めて見る作品で、今回この写真に惹かれた。元々本展は気になっていたですが、この写真を見た瞬間にさらにその期待が高まった。

まるで敬虔な修道女が祈りを捧げるような、静謐で厳かな雰囲気が写真に満ち満ちている、そう感じました。忠良のイメージが《帽子・夏》のような現代の女性像のイメージだったので、「こんな作品があったのか」と少なからず意外でした。

そして、クレジットを確認すると撮影したのは、仏像を多く撮影している佐々木香輔(@seisei_sasaki)氏。仏像専門なのかと思っていたので、こうした近代彫刻も撮影するんだと、それもまた意外でした。

よもつ
よもつ

でも展覧会を見終わった後には、佐々木氏が撮影したことにも納得!!なんです。どういうことかというと…

とにかく、この1枚の写真に一目ぼれして、「この作品を見たい!見なきゃいけないやつだ!」と思ったのでした。

そして私は会場でとんでもなく素晴らしい”裏切り”にあうのでした。その裏切りとは…

修道女と思ったのは、ボタンを取り付ける少女だった!

早速答えを明かしてしまうと、チラシを見て私が修道女と思った作品は《ボタン・大》というタイトルで、コートのボタンをつけようとじっと首を傾ける少女の姿だったのです。

ボタンを取り付けるという、日常的で、ささやかで、他愛のない、一瞬にして終わってしまう、ごくごくありふれた行為。その他愛ない一瞬の行為を、彫刻作品として永遠の時間を与えることに驚きました。

しかし、実際の作品を前にしても、やはりチラシで感じた”修道女”のような敬虔さのイメージは依然としてあり、すっとたたずむ少女の姿は、展示室に並ぶ他の作品よりも小ぶりにもかかわらず、どの作品よりも威厳に満ちているようでもありました。

なぜこれほどまでに”聖なる者”のイメージを抱いてしまうのか。その答えを求めるように、図録の解説を読んでみると、実はこの作品の制作には、ジャコモ・マンズーというイタリアの彫刻家が手掛けた《枢機卿》シリーズ影響が強く反映されているのです。

ジャコモ・マンズーの作品についてはこちらをご参照ください。

図録の解説によれば、マンズーの作品の影響というのは、マントのボリューム感ある表現、服のシワなど造形面においてですが、小さな少女が羽織るコートの表現に、キリスト教において絶対的な存在である枢機卿のマントの表現を踏襲することに、全くの狙いがなかったとは思えません。

造形上の表現手法を借りてくると同時に、”聖性”を重ねるイメージが忠良の中にあったとしても不思議ではないように思います。

それまで忠良は、炭鉱で働く労働者や漁師など、過酷な環境の中で生きる人々の姿を作品にしてきました。その時、彼らの姿を美化するわけでもなく、逆に醜悪にもせず、あるがままに表し、そのありのままの姿に懸命に生きる者の強さ、言い換えれば美しさを見出してきました。

そんな忠良だからこそ、「俗(=日常)」は、「聖(=美や崇高さ」と対立するものではなく、一体となるものと捉えていたのではないかと想像する。いやむしろ「俗」なるものの中にある「聖性」を彫刻によって浮かび上がらせたかったのかもしれない。

そう思いいたると、今回のチラシの写真を佐々木氏が撮影していることにも納得しかない。聖なる者の象徴である仏像を撮り続けた佐々木氏だからこそ、忠良の作品がもつ”聖性”をとらえることができる、おそらく依頼した人はそう思ったことだろう。

そして、佐々木氏は見事にその思いに応え、私はまんまとその狙い通りに「祈りを捧げる修道女」と思い込んで葉山までこの作品に会いに来た。

そう思うと、このチラシの写真はとんでもないミスリードを誘う写真だと思う。とんでもなく美しく、感銘を受けるミスリードだ。

代表作《帽子・夏》は、まるで仏像

美術館前看板(部分)

さて、チラシのもう一面を飾る《帽子・夏》。こちらの作品も今回の展覧会でガラッと印象が変わった作品です。

本作はこれまでに何度も本で見ており、1度くらいは実物も見た気もします。本作に対しては、誰もが思い描く夏のイメージの象徴、あるいは遠い昔の夏の日の記憶を思い出させるようなノスタルジー、そうした詩情あふれる作品というイメージを持っており、だから先ほどの作品と比べれば”お馴染みの作品”となるはずでした。

しかし、今回この作品向き合った時「まるで仏像だ」と感じました。この時私の頭の中に直感的に浮かび上がったのは京都・中宮寺の半跏思惟像です。

同じ展示室内にあるシリーズ作品《帽子・立像》が興福寺の阿修羅像、《帽子・あぐら》も釈迦如来座像のようでもあったので、この3作品を1度に目にした時に、全体を通して「仏像」のイメージを強烈に感じました。

後から図録を読むと、実際に仏像との関連も言及されていました。作家本人はあまり仏像を強く意識していることはなかったようですが、古今東西のあらゆる彫刻作品(時には彫刻に限らず絵画・デッサン)などを見てきた忠良ですから、制作の際に仏像のイメージを投影していても不思議ではありません。

先ほども述べた「聖性」を重ねるという点でも、忠良の作品と仏像を結びつけることはそれほどおかしな話ではないように感じます。

これまではこの《帽子》シリーズの作品に対して、女性(若者)のはつらつさ、あるいは”詩情豊か”などの言葉で、「物語性」があるものとして捉えていましたが、今回はそれに加えて「聖性」をも見出すことができ、全く初めてこの作品を見たような気になりました。

夏の天気が良い日に絶対おすすめの展覧会です!~7/2まで。

3つの傑作と愛蔵コレクションで織りなす彫刻家 佐藤忠良の世界
3つの傑作と愛蔵コレクションで織りなす彫刻家 佐藤忠良の世界。「生誕110年 傑作誕生 佐藤忠良」展が神奈川県立近代美術館 葉山にて開催中

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