「鏑木清方」展でさらに注目!《築地明石町》を家で余すところなく味わう『100%KIYOKATA!』

本・漫画

東京国立近代美術館で開催中(2022/3/18-5/8)の「鏑木清方」展。「西の松園、東の清方」と言われた日本画家で特に美人画で高く評価されました。

そんな清方の名作で長らく所在不明だった《築地明石町》が2018年に発見、翌2019年に東京国立近代美術館に所蔵されることになった。そんな《築地明石町》をはじめ、清方の名作を家で余すところなく堪能することができる1冊の本を紹介します。

鏑木清方原寸美術館 100% KIYOKATA! 鶴見香織(小学館)

原寸大で見る清方の名作!

本書の最大の特徴はズバリ、「原寸大」。展覧会なのでガラス越しに眺めている時はそれほど大きく感じないが、こうして手元で原寸大でみると生々しいほどに大きく感じる。それこそ一人の女性の等身大のように感じ、ページを開いた瞬間ドキッとする!また本書は100%どころか200%に拡大した図もあり、清方の髪の毛はもちろん、眉毛やまつ毛の一本一本までも描く、細やかな描写を堪能できる。

特に描かれた女性の眼差しをじっくりと見ることができるのがいい。《築地明石町》の一点を凛々しく見つめる眼、《初冬の花》の伏し目で物憂げな眼、なんてことのない仕草の中でふとした瞬間見せるドキッとする眼を、清方の筆は逃さない。

展覧会場でどんなに単眼鏡を駆使してもこれほどの倍率で見ることはできないのではないだろうか。そしてそれを他の人に遠慮することなくいつまでもうっとりと眺めていられるのだ。

《築地明石町》だけじゃない。清方の名作を一度に味わう

本書は《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》という「清方三部作」だけでなく、東京国立近代美術館が所蔵するおもな清方作品についても同様に100%原寸大の画像と共に紹介されている。

  • 《明治風俗十二ヶ月》
  • 《三遊亭圓朝像》
  • 《墨田河舟遊》
  • 《弥生の節句》
  • 《端午の節句》
  • 《鰯》
  • 《初冬の花》
  • 《晩涼》
  • 《目黒の栢莚(はくえん)》

特に《明治風俗十二ヶ月》は全ての月の絵をそれぞれ原寸大画像があるのが嬉しい。展覧会でも全点展示されているが、こうしたシリーズ物の作品は展覧会場で1点1点を細部まで集中して観るというのは中々難しいし、解説も細かくされている訳ではない。
 例えば1月の羽子板で遊ぶ少女。その羽子板には歌舞伎の『本朝二十四孝』の八重垣姫、役者は当時活躍し、八重垣姫を当り役としていた四代目中村福助だそう。歌舞伎に精通しており、歌舞伎に関する仕事も手掛けていた清方ならではの細やかさがうかがえる。

展覧会場内のキャプションでは1点1点について詳しい解説はないので、もしこれらの作品について興味を持った方は、この1冊で振り返ってみることをお勧めします。会場内では気付かなかった新たな発見をすることができるでしょう!

幻の作品、再発見のドラマを知る

本書では《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》の3点の作品が発見されるまでの経緯について、筆者である東京国立近代美術館の鶴見研究員による解説がある。解説ページには、外箱など絵が納められていた状態の写真や、その箱に記された署名など、展覧会では見ることができない資料も見ることができ、この「清方三美人」の再発見のドラマを知ることができる。

さいごに

「鏑木清方」展では、大きい作品から小さい画面の作品まで、日常生活を描いたものから歌舞伎や文学の世界を描いた作品など様々な作品が展示されていたが、私の思う清方の魅力は、ふとした瞬間の美しさの切り取り方、そしてそれを実にさりげなく丹念に描く点だと思う。なので、広いアングルで捉えた画面より、人物1人をじっと見つめる眼差し(画面の切り取り方)が上手く、挿絵画家としてキャリアをスタートさせた清方ならでは強みであるように思う。

本書は、そうした清方の作品を原寸大でA4サイズに収め、私たちの掌の中でじっくりと味わうことができる贅沢な一冊なのだ。

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