大阪中之島美術館「みんなのまち 大坂の肖像(Ⅰ)」展

美術

中之島美術館ってどんな美術館?

大阪中之島美術館は、1990年に準備室が設置されてからおよそ30年の歳月を経て、2022年春、ようやく開館となったできたてホヤホヤの美術館です。私が学生時代の時から準備室はありましたが、中々具体的な話が聞こえてこず、「本当にできるのだろうか?」と幾分その先行きを心配していましたが、ようやくオープンという事で、ぜひ早い段階で行きたいと思っていた美術館です。

真っ黒な外観はかなりの存在感。画面右の白いテントがある場所は美術館のカフェがある広場(雨が降ってなければ最高だったのに)

大阪中之島美術館では、19世紀後半から今日に至る日本と海外の代表的な美術作品を核としながら、地元大阪で繰り広げられた豊かな芸術活動にも目を向け、4900点を超えるご寄贈作品と購入作品をあわせた6000点超のコレクションを所蔵しています(2021年4月現在|寄託品を除く)。

コレクションは、洋画、日本画、海外の近代絵画、現代美術、版画、写真、彫刻、デザインなどの領域にわたります。とりわけ佐伯祐三の名作、モディリアーニの裸婦像、具体美術協会のリーダー・吉原治良の作品、海外作家の代表作などは、国内外で高く評価されています。これらの作品はコレクション展を中心に、大阪市内外で開催してきた60回を超える展覧会で皆さまにご覧いただいてきました。

美術館HPより引用

黒を基調にしたシックでスタイリッシュな内部は、吹き抜けの広々とした空間でこれから出会う近現代のアートへの期待が高まる。開館したばかり&GW期間ということもあって、2階のチケットセンター付近は多くのスタッフさんが立っていてくれているので、初めての場所でキョロキョロしている私に優しく声を掛けてくれました。どのスタッフさんも丁寧な印象でした!

ヤノベケンジ《ジャイアント・とらやん》

今回は「みんなのまち大阪の肖像」展のみを観に行ったけれど、その展示室がある4階フロアには、彫刻作品や現代アーティストのヤノベケンジの作品がドドーンと設置してあり、来場者を迎えてくれます。

展覧会概要


開館記念展 みんなのまち 大阪の肖像
会期:2022年4月9日~10月2日
 [第1期]4月9日~7月3日 ※5月17日より展示の一部が変わり、後期展示となる
 [第2期]8月6日~10月2日
休館日:月曜日(5月2日、9月19日を除く)
開催時間:10時~17時
観覧料:一般 1200 円、高大生800円、小中生 無料
*第1期+第2期セット券も販売。(一般2000円 高大生1200円|団体料金は各200円引き。第1期の会期終了までの限定販売)

展覧会HP:https://nakka-art.jp/exhibition-post/osaka-portrait-2022/

チケットは展覧会HPから事前購入することもできるが、当日美術館の窓口でも購入可能。その他、特別展(現在「モディリアーニ展」を開催中)との相互割引も実施しているので、HPで要確認。

章構成

この展覧会は美術館開館を記念して、美術館が誕生する「大阪」の街をテーマにした展覧会で、美術館のコレクションを中心に、近現代の絵画、版画、ポスター、写真、彫刻・工芸など様々なジャンルの作品から、近代化・西洋化の中で刻々と変化していく大阪の”肖像(かお)”を浮かび上がらせます。

展覧会は第1期(4/29~7/3)と第2期(8/6~10/2)と大きく分かれ、第1期では、明治・大正・昭和の戦前までの時代を振り返ります。

この本展覧会は下記の5章構成になっています。

  • 第1章「ほな。きいきまひょ。 おおさか時空散歩ー中之島からはじめようー」
  • 第2章「のっけの、ふうけい。 胎動するランドスケープ」
  • 第3章「ほこえる、まちなか。 パブリックという力場」
  • 第4章「せんど、うつやかな。 商都のモダニズム」
  • 第5章「ころこぶ、あとさき。 たなびく戦雲」

第1章「ほな。きいきまひょ。 おおさか時空散歩ー中之島からはじめようー」

「ほな。いきまひょ。」という大阪弁独特の程よく肩の力の抜けたような挨拶で始まる第1章は、明治~大正・昭和期の大阪の風景、とりわけ美術館が位置する中之島界隈など、水辺の景色を描いた作品が並びます。佐伯祐三小出楢重といった洋画家たちによる大阪の街を描いた風景画から、明治期に大阪で活躍した浮世絵師・初代長谷川貞信の『浪花百景』シリーズ、また水運業が盛んだった当時を思わせる造船会社のリーフレットなど、「水の都」としての大阪の姿が蘇ります。

一方で近代化による都市開発のため土地の埋め立ても進み、少しずつ水辺の景色が消えていくことにもなります。川瀬巴水の《大阪道とん堀の朝》織田一麿『大阪風景』シリーズからは、近世と近代の狭間で確かにそこにあったはずの”大阪の風景”を叙情豊かに留めています。

第2章「のっけの、ふうけい。 胎動するランドスケープ」

「のっけ」とは「最初」を意味する言葉。現在の中之島界隈は多くのオフィスビルが立ち並んでいます。当然のように気にも留めていないこうした風景は、元を辿れば明治維新後、近代化が進む中で様々な企業がここにオフィスを構え、デパートを建て、また鉄道という交通網によってより早く、より多くの人が大阪の街に集まった”のっけの風景”があったおかげです。

本章ではそうした新たに生まれようとする「大阪の風景」を、辻愛造ら洋画家らによる油彩画、前田藤四郎の版画作品や、北野恒富のポスターなどから、新時代の幕開けに乗り遅れまいと駆け抜ける大阪の姿を追って行きます。

第3章「ほこえる、まちなか。 パブリックという力場」

「ほこえる」とは「誇り栄える」という意味。江戸時代から「商人の町」として栄えた大坂は、近代にな都市人口が日本一となり「大大坂」と呼ばれる程になります。デパートが立ち並び、洋装姿の人も増えてその外観は大きく変わっていく中で、パブリック(大衆)性=マスメディアが絶大な力を持つようになります。

本章では百貨店のポスター、山田伸吉による松竹座のリーフレットなど、大衆文化を支えた印刷物をはじめ、ショーウィンドウの光景を描いた前田藤四郎の版画や、関西で活躍した漆芸家・島野三秋による《そごうエレベーター漆螺鈿装飾扉》などが並び、そうした作品からは新時代の幕開けを謳歌しようとする人々の熱気、街の喧騒が目に浮かぶようです。

展示室の間のロビーからの風景。これが”令和時代の大坂の肖像”

第4章「せんど、うつやかな。 商都のモダニズム」

「せんど」とは「大いに」もしくは「何度も」「先日」という意味。「うつやか」は「美しい」。大衆文化の隆盛は印刷文化の発展でもあります。特に版画家の前田藤四郎は、松坂屋宣伝部に入社し、その後義兄が設立した広告印刷会社でグラフィックデザイナーとして働く一方、版画家として独自の技法を確立し、シュルレアリスム的な作品を多く作りました。

既に様々な商業ポスターなどが展示されていますが、本章ではさらに写真も加わり、”大衆文化”という土壌と、いわゆる”芸術”の両者があいまって育まれたモダンな美意識を見ていきます。

第5章「ころこぶ、あとさき。 たなびく戦雲」

「ころこぶ」とは「転げる」ということ。意気揚々と発展してきた大阪の街も、昭和になり戦争の足音が忍び寄る頃には、華やいでいた街の喧騒は消え、軍の司令に従い、息をひそめるようになります。そうした時代を写真や絵筆で残した作家たちの痕跡を見ていきます。

特に吉原治良による戦争をテーマにした作品群からは、言論の自由、身体の自由を奪われた人々の苦しみや憤り、不安、恐れといったものが凝縮されています。戦争画以外の絵には絵具の色も限定されてしまう時代の中で、限られた色彩によって描かれた作品は、静かに、しかし雄弁に「戦争」という禍いを物語ります。

注目ポイント

水の都・大阪の景色はまるでパリ⁉

第1章の作品を観た瞬間から思ったのが、水辺の大阪の風景がどことなく「パリのセーヌ川」のような雰囲気ということ!実際にパリにも行った洋画家たちが、近代化する大阪の水辺の風景をパリになぞらえているのだろうと思われますが、そう思った束の間、斎藤与里の《難波橋風景》ではそうした”パリっぽい風景”の中に、橋の向こうに大阪城の天守閣が描き込まれていて思わずクスっと笑ってしまう。

また第3章の辻愛造の《夜の食堂》は、ビアガーデンのような夜の屋外食堂の賑やかさを描いているのだが、ワイワイガヤガヤしている感じがどうも俗っぽく、ゴッホの《夜のカフェ・テラス》のようなロマンティックさや、ルノワールの《ムーラン・ド・ラギャレット》のような上品さがない(笑)

西洋風に憧れ模していても滲み出る日本人(あるいは大阪という地)の気質のようなものが入り混じっている感じがなんとも面白い。

刀じゃないよ!版画家・前田藤四郎の魅力

今回の展示で特に目を引いたのが前田藤四郎…といっても刀剣の方ではないですよ。『刀剣乱舞』のおかげで「前田藤四郎」と検索するとゲームのキャラクターが筆頭に出てしまいますが、日本にはもう一人(刀剣の方を1人扱いすべき?)、版画家の「前田藤四郎」がいるのです!

前田藤四郎〔明治37(1904)年ー平成2(1990)年〕
兵庫県明石市に生まれる。中学時代から水彩画を描くなど絵に親しみ、神戸高等商業学校(現・神戸大学)卒業後、松坂屋大阪店の宣伝部に入社。その後版画に興味をもち、昭和4年に広告会社「青雲社」でグラフィックデザイナーとして勤める中、版画の表現を模索し、シュルレアリスムな独自の表現を確立していく。関西における創作版画の草分け的存在。

写真の作品しか撮影できなかったのが口惜しいほど、今回展示されている前田の作品が魅力的だった。特に第2章で展示されている《屋上運動》(前期展示)は一目見てシュール!上半身は裸でスカートだけを穿いている4人の女性がビルの屋上でボール遊びをしている絵。近代化する大阪の町を背景にしながらも、シュルレアリスムのデ・キリコやダリの絵を彷彿とさせる白昼夢のような雰囲気を漂わせています。船場ビルディング広告デザインとして制作されたようですが、近代化する意気揚々とした時代のムードとシュルレアリスム的な冷めた視線が綯い交ぜになった不思議な作品でした。

写真の作品は《空中曲技》。解説によると、前田が勤めていた広告会社「青雲社」は塩野義商店(現・塩野義製薬)の重役であった前田の義兄が設立した会社であり、塩野義商店の広告物を多く手掛けていた。そうした環境であったため前田の蔵書の中にはドイツの医学書があり、その中の解剖図の挿絵などが用いられているとのこと。小さい子ならちょっとしたトラウマになってもいいレベルの奇妙で怖い作品!

吉原治良が描く”戦争”

最後の戦争の時代をテーマにした章の中でもとりわけ展示の比重を占めていたのが吉原治良。個人的には”大きな円を描いた絵”というイメージが強かったので、戦争という具体的なテーマを描いていたことに驚いた。

枯木と蟲たち》では、画面の各辺を薄い板が覆い、画面中央にできた隙間から外の明るい青空が見えます。ちょうど鑑賞者である私たちが板で囲まれた空間(家か防空壕のような閉塞された場所を象徴していると思われる)にあるわずかな隙間から外の様子を見るかのような作品で、板にはカタツムリ、蟻、蛾が張り付いていおり、ちょうど2匹の虫が外に飛び出そうとしています。

カタツムリや蟻は、「地を這う者=戦禍で地を這うように逃げ惑う庶民」のイメージだろうか、そして今まさに外に出ようと飛ぶ2匹の虫は特攻を命じられた兵士だろうか、あるいは希望を胸に外に飛び出した者たちだろうか…小さな画面の中で様々な想像が膨らみます。

また《菊》という作品では、菊の花がまるで格子の枠の中に収まるように縦横にきちんと並び、花弁は全て中央に向って閉ざすように描かれています。日本の国(皇室)の象徴でもある菊の花が、その花弁を内に向けて窮屈そうにひしめき合う姿は、言論の自由を奪われ、防空壕で身を潜めている国民一人一人の姿だろうか。これほどまでに息の詰まる菊の花の絵は見た事がない、胸を打つ作品でした。

よもつ
よもつ

図録がないのが惜しまれるほど見応えのある展覧会。せめて中之島美術館のコレクションの作品だけでも写真に収めたかった…。第2期と合わせて図録になると嬉しいな…

GW期間中に近くのレストランでポストカードプレゼント!

2022年4月29日~5月8日までの間、中之島美術館近くのフェスティバルプラザ内のレストラン・カフェでは、開館記念としてポストカードプレゼントキャンペーンを実施中!美術館内にキャンペーンの冊子が置いてあるので、要チェックです!

どのお店も美味しそうでしたが、キッチンジロー王道の洋食プレート(1,300円)をいただきました!「大大坂」の雰囲気を彷彿とさせる洋食プレート(オムライス・エビフライ・ハンバーグ)、豚汁がついてくる和洋折衷な感じがまたいい!!

半券見せたらデザートでバニラアイスもついてきました!

ちなみにポストカードはロートレックのポスター佐伯祐三の《船》の2枚。特に佐伯祐三は展覧会の中でも魅力的だと思っていた1枚だったのでこれは嬉しい!!(ポストカードの中でも大きめサイズでした)

キャンペーンについてはこちら

大阪の新名所になるであろう中之島美術館。近くには国立国際美術館や、科学博物館もあるので、美術館・博物館ハシゴをするのもおススメ!また「大阪の肖像」展は大阪の街がもっと好きになる展覧会なので、大阪在住者もそうでない人も大阪のもつ多様な一面を見に来てはいかがでしょうか。

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