能・歌舞伎が好きならアーティゾン美術館「はじまりから、いま。」展に行くべし!

美術

能や歌舞伎を普段から観に行っている方へおススメの展覧会を紹介します。ずばり、アーティゾン美術館の「はじまりから、いま。」展
「あんまり関係なさそうだけど?」と思うかもしれませんが、実はこの展覧会で興味深い資料が展示されているんです!

展覧会概要
会場入り口のバナー

「はじまりから、いま。」展
会期:2022年1月29日~4月10日
開館時間:10時~18時(毎週金曜日は20時まで)
休館日:月曜日(3/21は開館)、3/22
入館料:
一般(ウェブ予約)1,200円、(当日窓口)1,500円
学生(当日予約)無料
ローソンチケットで購入の場合1,200円
美術館HP:https://www.artizon.museum/

写真からイメージされるように、この展覧会はアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)の代表的なコレクションを展望する展覧会なので、古代美術から近代西洋絵画、近現代の日本人画家、現代のアーティストまでと古今東西を横断するもので、特別「歌舞伎」や「能」に特化している物ではありません。

でもその展示室の一室で、能の囃子が聞こえてくるではありませんか!

前田青邨による《石橋》の製作記録映画

その囃子の正体は、ブリヂストン美術館が1950~60年代にかけて取り組んでいた同時代の芸術家たちの記録映画。その内、特に日本画家の前田青邨が宮内庁から依頼され、宮殿内の一室を飾るための絵を製作した際の過程を取材した記録映画が上映されているのです。

前田青邨が描いた《石橋》は宮殿に飾られ「石橋の間」と称されています。天皇陛下が会見を行った際に天皇陛下の背後に映っているのをニュースなどで見た人もいるのではないでしょうか。(googleで「石橋の間」と画像検索すると出てきますね)

《石橋》とは、能の演目『石橋』のことで、舞台の後半、後シテが赤い髪をした獅子の精が勇壮に舞うのがみどころの演目です。(あらすじは下記を参照)

国・インドの仏跡を巡る旅を続ける寂昭法師[大江定基]は、中国の清涼山(しょうりょうぜん)[現在の中国山西省]にある石橋付近に着きます。そこにひとりの樵の少年が現れ、寂昭法師と言葉を交わし、橋の向こうは文殊菩薩の浄土であること、この橋は狭く長く、深い谷に掛かり、人の容易に渡れるものではないこと[仏道修行の困難を示唆]などを教えます。そして、ここで待てば奇瑞を見るだろうと告げ、姿を消します。寂昭法師が待っていると、やがて、橋の向こうから文殊の使いである獅子が現われます。香り高く咲き誇る牡丹の花に戯れ、獅子舞を舞ったのち、もとの獅子の座、すなわち文殊菩薩の乗り物に戻ります。

https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_030.html

歌舞伎でも同じく「石橋」という演目があり、また歌舞伎の人気演目「連獅子」など「獅子物」と呼ばれる作品群の題材としても有名です。前田青邨は歌舞伎とも縁が深い画家の一人です。歌舞伎座の筋書(公演プログラム)の表紙絵を手掛けたり、舞台美術に携わったりしていました。ですので歌舞伎が好きな方なら一度はその名前を耳にしたり作品に触れたりしたこともあるでしょう。その青邨が(能とはいえ)”舞台を描く”場面を目の当たりにできるのは、貴重な機会ではないかと思います。

この時モデルとなったのは喜多流の喜多六平太氏。映画の中では能楽堂で舞う平太氏の姿を紙に留めようと、鋭い眼差しで舞台を見つめ素早くスケッチする青邨の姿を見ることができます。個人的に大変興味深かったのが、能面、能装束をつけた姿を描く上でも、まず最初の下描きは人物の肉体そのものを描いている点でした。もしかしたら絵を描く人にとっては当然のことなのかもしれませんが、美術は好きでも実技はできない私としては眼からウロコでした。(私もイラストを描きはじめたのですが、人体表現の練習から目を逸らしているので、いつまでたっても人体の肉感をちゃんと表現できないので、「青邨でさえまずは人体をきちんと描くことから始めてるんだぞ!お前ごときがその練習せずして上手くなれるはずがないだろ!」と大いに反省しました(笑))

ちなみに展覧会では記録映像だけでなく、前田青邨の《風神雷神》という作品も展示されています。”風神雷神”と言えば、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一…といった琳派と称される絵師たちによって描かれてきたモチーフです。青邨の”風神雷神”は、そうした琳派の系譜を意識しつつも、近代的な感覚で捉え直し、”神”という畏れ多い存在を、まるで生き生きと走り回る少年のような瑞々しさを湛えた姿で表現しています。

おわりに

「記録映画のためだけに行くのって正直ちょっと…」と思うかもしれませんが、展覧会自体とても面白いですし、こうした記録資料は美術作品より目に触れる機会も多くはないので、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

展覧会全体についてはこちらの記事で感想を書いています。

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