【日常で使える歌舞伎のセリフ】

暮らし

歌舞伎に対して「難しそう」とか「江戸時代の話に共感できるの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。確かに身分制度など今とは社会体制も生活風俗も異なりますが、歌舞伎も当時の人々にとっては”現代劇”。そして、描かれているのは、人間の生き様です。愛する家族や恋人を思う愛情であったり、悪巧みを企てる者の愚かな性(さが)だったり…そうした本質的なものは、時代や文化が違えどそう変わるものではありません。

歌舞伎のセリフを紹介する本では、いわゆる”名台詞”として有名な七五調の台詞などが紹介されますが、この【日常で使える歌舞伎のセリフ】では、日常生活のちょっとした場面の中で使えるワンフレーズを紹介していきます。

よもつ
よもつ

知っていると日常生活がちょっと面白く豊かになって、”格式高いもの”というイメージだった歌舞伎も身近に感じられると思います!

でかしゃった!でかしゃった!でかしゃったわいの~

この台詞が出てくる作品は?

●『伽羅先代萩 御殿』(めいぼくせんだいはぎ ごてん)
・作者:奈河亀輔
・初演:1777(安永6)年4月 大坂・中の芝居

・概要:江戸時代に実際に起きた伊達騒動を下敷きとして、御家乗っ取りを企てる仁木弾正一派と、それを阻止しようとする政岡らの対立を描く。原作の内、現在では特に「御殿・床下」の場面が多く上演され、「床下」では風格のある悪役・仁木弾正が暗闇の中現れ、2本のろうそくの明かりのみが弾正を照らし、妖術を使って立ち去る弾正の不気味な引っ込みが見どころ。

物語のあらすじ

御家御乗っ取りを企てる敵の一派に対し、藩主の子である鶴千代君を暗殺から守るため、乳人(めのと)の政岡は自分の息子の千松と一緒に奥御殿で若君は病気と偽り匿います。千松にはいざという時にはその身を挺して若君を守るよう教えていました。ある時、敵方である栄御前が、若君の見舞いにお菓子を持ってきました。毒が盛られていると疑う政岡ですが、栄御前は自分よりも偉い身分、面と向かって疑う訳にはいきません。すると突然千松が走り出てお菓子をつまみ食い、残りのお菓子も足蹴にしてしまいます。そして、千松は俄に苦しみ出します。「やはり毒だった!」と思った瞬間、敵の一人である八汐が千松を刺し殺します。八汐の言い分は「栄御前様からのお菓子を足蹴にした無礼のため」。政岡は息子が目の前で殺されているにもかかわらず顔色一つ変えず、あくまでも若君を守護します。その姿を見て、なんと栄御前は政岡が実は御家乗っ取りを企てる自分たちと同じ側だと判断し、謀略の証拠である手紙を渡すのです。

動かぬ証拠を掴んだ政岡は、栄御前たちが去り、殺された千松と二人きりとなった時にようやく千松の死を悼み、また命に代えて若君を守り、そのおかげで敵の証拠まで手に入れることができ、幼いながらも武士としての忠義を果たした息子を涙ながらに褒めるのです。「でかしゃったでかしゃった…」はその時の台詞。

よもつ
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主君のために子供を見殺しにするなんて考えられない!って思うかもしれませんね。確かに現代では我が子を本当に見殺しすることなど滅多に起きないと思いますが、親の都合で子供に我慢させてしまうこともあったり、子供が親が思っていた以上に思いやりのある行動に出たりすることってありませんか?そうした「思っていた以上に子供がすばらしい行動に出た時の親の感動」の極致と言えるのではないでしょうか。

舞台のみどころ

この作品の最大のみどころは、やはり何と言っても敵が帰って殺された息子と二人きりになって、ようやく”母”として子供を失った悲しみがどっと溢れて泣くところ。しかし、それと同時に、立派に主君を守った我が子を褒めてやる愛情を表現するところに胸が締め付けられる思いになります。「子供が死んで悲しい」という感情はありますが、それと同時に「我が子が”いざとなったら若君を守れ”という自分の教えを実行した事、子供ながらに立派な武士の心を持ちその責務を全うした事」に対して、親としてかけてあげることができる最大限の言葉がこの「でかしゃった」という台詞に込められています。

よもつ
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個人的には千松を嬲り殺す八汐という役柄にも注目!通常歌舞伎では女性役は女方(おんながた)という女性役専門の役者が演じますが、この憎々しい八汐は立役(男性役をメインとする俳優)が演じます。女方が演じる以上に不気味で憎たらしい感じが出て、政岡の正義感溢れる凛々しい姿を引き立てます!

トリビア

伽羅のお香(香の聞香体験にて)

タイトルの”伽羅”って?
伽羅(きゃら)と書いて”めいぼく”と読む「歌舞伎ならでは」のタイトルですが、伽羅とは非常に高価な香木のこと(以前お香の体験会で聞いたところ、今では1g=5万円にもなるとのこと)。政岡が守ろうとしている若君の父親(=藩主)が悪者一派に唆されて遊興三昧、貴重な伽羅の香木を木履にしてはいたという設定からつけられています。

いざ、使ってみよう!

使用シーン

誰かをほめる時(おもに子供に対して)
・子供が親の言いつけを守った時
・誰かのために思いやりのある行動をした時
・子供とは思えない優れた行動をした時
など

ちょっと褒める時は軽く「でかしゃった、でかしゃった」とカジュアルに。子供がとても立派な功績を残した時には、ラストの「でかしゃったわいの~」で両手を上げて最大限の気持ちを表現すると良いでしょう!

作品を鑑賞するには?

歌舞伎は劇場で生で体験するのがベストですが、中々観に行くのが難しいという方はDVDも出ています。政岡役は、昭和を代表する名女方・中村歌右衛門。


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