【レビュー】s**t kingzライブツアー2025「s**p」(後編)

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s**t kingzライブツアー2025「s**p」のレビュー記事(後編)です。

前編はこちら)

色気3部作

そしてここでついに今年の夏にリリースされた「色気3部作」のパフォーマンスとなる。「Spinship feat. VivaOla」「Biotope feat. claquepot」「Ignite feat. Dou」の3曲は、それぞれ生命の「芽吹き」「咲き乱れる様」「枯れゆく中の輝き」をテーマに、命の巡り、その輝きを「色気」と定義する。

ライブではこの3曲を立て続けに披露したのだが、これが公演によって1番ぐっとくる曲、ポイントが本当に違う。その日の精神的な状態や、座席の位置の違いによって目に留まる箇所が違うなど、理由は様々なのだが、いずれにしてもこの3部作で共通してるのは、声が出せないのだ。単純に座ってるから声出しづらいということではない。いつもならここぞというポイントで自然と声が出るが、この3部作ではむしろ逆で、1つ1つの仕草、振り、視線、表情、構成が、私の体の芯を掴んできて声が出せないのだ。声を奪われた私は泣くしかなかった。

「Spinship feat. VivaOla」

芽生えをテーマにした「Spinship feat. VivaOla」は、MVでは爽やかさを全面的に出していたが、ライブでは個々の動きが一層際立つからこそ「色気」を1番感じた。彼らのダンスで多用されがちな「キレキレ」から離れて、柔らかくしっとりしたニュアンスに目を奪われる。息を呑むほどの美しさで、自分のみぞおち辺りがぐぅっと重くなるような、締め付けられるような、身体の内側を疼かせる、いわば「官能」だ。最後に植物の芽が伸びる様子を腕と手だけで表したシーンが心に刻まれる。

「Biotope feat. claquepot」

Biotope feat. claquepot」。長年の盟友の一人claquepotとのコラボレーションであることがまずトピックとして挙げられるが、その背景を抜きにしても曲自体のエモーショナルなメッセージが胸に響く。広島公演では後列ブロックのセンターで見たことで、ラスサビでの4人の表情が全然違うことが強烈に印象に残った。shojiさんは満面の笑顔、kazukiさんは真顔で会場後方をまっすぐ見据える眼、Oguriさんはそれよりもう少し焦点が近いとこにあるストイックな眼、NOPPOさんはどこを見てるか分からない(分からせない)ニュートラルな面差し。

同じ曲、同じ振りを踊っているのに、4人の表情が全然違う瞬間を見た時、「あぁ、多分制作してる時もこの顔なんだろうな」と思った。shojiさんは誰も置いていかないように笑顔で周りの人を巻き込み包みながら、kazukiさんはシッキンという船の目標(その中で自分のすべきこと)をまっすぐ見据えながら、Oguriさんは自分に負荷をかけ続けながら、NOPPOさんは飄々と軽やかに想像の羽を羽ばたかせながら、18年歩み続けてきたんだなと。

漫画の『ONEPIECE』ではないが、4人乗りの船で漕ぎ出した航海は、各地の人を幸せにしながら、仲間を増やして、船自体も大きくなって旅を続ける。バラバラだからこそ1つになる瞬間が尊い。バラバラだからこそたくさんの絵が描ける。この一曲が1つの映画を観るような濃密さだった。

「Ignite feat. Doul」

その感傷に浸るうちに「Ignite feat. Doul」となり、世界観がガラリと変わる。ステージ中央に天井から円錐状に照らされる白い照明のみ。その中で4人が次々と入れ替わりながら踊る。

不穏な妖気が会場に立ち込め、一気に緊張感が張り詰める。「枯れていく中の狂気」。

心の奥の一番底の昏(くら)さを暴かれるような感覚に陥る。何事もないように取り繕っていた表面を捲(めく)って、その内側を抉(えぐ)り出されるような感覚。こんなに怖いシッキンは初めて見た。彼らのパフォーマンスに「重さ」を感じたのは初めてかもしれない。

後半~ラスト

会場が感動に包まれる(その感動をどう表現するのが正解なのか分からない微かな戸惑いが入り混じる)中で再びMC。いつも通りの親しみやすい4人の姿が戻って来てホッとする。三部作はじめ今年リリースされた楽曲や、10月15日リリースの「愛が呆れ果てるまで feat. 三浦大知, SKY-HI」、武道館の話があり、いよいよ後半戦。

kazukiソロ

後半戦はkazukiさんのソロから始まる。それまで着ていたジャケットを脱ぎ、黒のトップスにキャップというシンプルな装い。だからこそkazukiさんのクリアなダンスが際立つ。セクシーな楽曲で色気たっぷりに踊る姿も良いが、「未来紙」のようにメロディアスな曲をカズキさんらしい細かな音取りで踊る方が私は好みなので、今回のソロはどちらかと言えばそちら寄りで嬉しい。

kazukiさんのダンスはクリアな分、最短距離で見る人の心を奪う。普段から「効率重視」と言っている彼だが、本当に寄り道なくまっすぐに届く。そしてとにかく指先がキレイだとつくづく思う。「神は細部に宿る」ではないが、一挙手一投足が絵になる。「そりゃ、この人のダンスを好きになってしまったらもう他じゃ満足できないだろうな」とつくづく思う。

NOPPOソロ

再び暗転。次のソロはNOPPOさんしかいない。しかしその予想は思わぬ形で挫かれる。当然彼が出てくるのだろうという読みとは裏腹に、再び照明がついた時そこにいたのは赤いスカーフを頭から被った人。

もちろんNOPPOさんで間違いないのだが、その登場の仕方に動揺する。ざわつく心地の観客を他所に、男とも女とも言えない、そのどちらとも言える多義的なその人は、厳かに手を動かし始める。その姿は敬虔な修道女のようで、背後からの光で会場の左右に影が映ると、ライブ会場が中世ヨーロッパの石造りの教会へと趣を変える。やがて動きが大きくなり、スカーフを外す。頭を覆っていたスカーフは「禁欲」という役割を解かれ、「血」となって躍動する。視線に、仕草に、スカーフの揺らめきに誘われるように観客は陶酔していく。次第に踊りが激しくなり自然とシャツがはだけていく様は作為的でもあり偶発的でもある。それもその人の罠なのか、あるいはその人自身さえも罠にはまっている側なのか、分からなくなる。

1点、最後にシャツを脱いで黒のタンクトップ姿となり天井に突き上げる形で終わるところは、興醒めてしまった。せっかくの世界観がタンクトップ姿という生々しい「男性らしさ」が全面に出てしまい、個人的にはもったいない最後だと感じた。むしろ赤いスカーフを投げて立ち去る位でも良かったように思う。演者が最後に絶頂に達するのではなく、そのギリギリのところでスッと引く方が余韻が残るのではないだろうか。いや、そんな生易しいものではない。スッと引くことで、強烈な印象が残り、観る方が絶頂に達する、そして渇望するのではないだろうか。

「I won’t say good bye feat. KAIKI」

どよめきのような、悲鳴のような観客の声が静まると、「I won’t say good bye feat. KAIKI」。shojiさんとOguriさん、地図と舵を回して再びシップの世界観に⇒途中から麦藁のハットを手にしたNOPPOさんkazukiさん登場。2人の小道具使いの華麗さったらない。小道具の魔術師。そこへビール瓶を手にしたOguri&shojiが合流。4人で乾杯して陽気な船旅が続く。

「ラストスパー島」パート

MCとなりkazukiさんが会場を煽る。shojiさんがラストスパートの島「ラストスパー島」に到着した事を告げ、観客は再びスタンダップ!怒濤のダンス三昧。

Get on the floor feat. MaL, ACHARU & DREAD MC」で会場のボルテージを一気にMAXに持って行く。このパフォーマンスの中毒性の高さは常軌を逸している。エンドレスで踊ってほしい。

衝動DO feat.在日ファンク」で会場一体となって衝動的に踊る。途中で差し挟まれる衝動ズビズバゲームでは毎公演スタッフさん2名が選出され、衝動的に踊る。名前を呼ばれてから登場するまでの間の時間がバラバラなのが、事前の打診なしを物語る。いわばコミカルパートだけど、スタッフを含めたチームシッキンの仲の良さ、信頼関係、付き合ってきた時間の長さを瞬間的に感じ取れるから単に面白いだけじゃない、幸福感がある。

その後に観客もズビズバゲームを体験。「ダンスは上手い下手とか関係ない。楽しんだ者がち!」というshojiさんのメッセージはきっと何度聞いても心に響くだろう。シッキンはダンスを「ダンスができる人」だけのものにしない。「ダンスが好きな人」だけのものにもしない。「ダンスに興味がない」人も「ダンスが嫌いな(苦手意識、トラウマがある)人」に向けても開かれている。今この瞬間を、今あなたがあなたであることを楽しむことが尊くて、その事を伝えるために、彼らは踊る。

続く「KID feat. LEO (ALI)」は、会場全体でタオルを振り回すために作られた楽曲。観客はここぞとばかりにタオルをぶん回す。これでもかとタオルを振り回して観客のアドレナリンを大放出させた後、ここで今回のセトリの中でもダントツな展開、「What You See feat.Maddy Soma」となる。舞台『see』のテーマ曲として制作された楽曲だが、舞台の時は作品自体の世界観やメッセージと相まって見ていたが、今回は舞台の文脈から離れたことでダンスそのもののカッコ良さに気付かされた。

再び「KID 」になり、メンバーの2人が客席にも降りてきて(2階席がある時はshojiさんが2階席まで駆けつけて)、後方の人へのサービスをして一体感は最高潮に達する。

そしてここで残念なお知らせ。なんと次が最後の曲だという。あっという間過ぎて信じられない。ラストは撮影OKとしたうえで「Oh s**t!! feat. SKY-HI」を披露。NOPPOさんのハイジャンプは、最高を更新し続ける、進化し続ける証。そしてNOPPOさんのハイジャンプに気を取られがちだがその奥でキーボードのあっちゃんこと井上惇志も結構なハイジャンプを決めている。バンドメンバーも心から楽曲を楽しんでいるのがいい。

まとめ

千穐楽の広島公演にて(会場の傍の港にはリアルの船も)

あっという間の船旅は、興奮と感動の渦に次々と巻き込まれる予測不能な旅だった。2年前の「踊ピポ」ツアーから、さらに表現したいメッセージ、世界観が多彩となり繊細となっていた。

その2年の間にシッキンフェスや舞台「See」、その他さまざまな企画でダンスパフォーマンスをプロデュースをしたり、舞台や映像でお芝居の経験を積んだことで、シッキンとしての表現の枠が「4人」からさらに拡張していったと感じていたが、その拡張された視野を再び「4人」でのパフォーマンスへと落とし込んだ時、こんなにも豊穣な世界へとつながっていくのかと思った。

観客も一体となった船旅の後、彼らは10月31日、11月1日の日本武道館に「LANDING」する。2年前の武道館公演から、様々な経験を経た彼らが次に見せるパフォーマンスがどのようなものになるのか。しっかりと見届けたい。

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