【レビュー】「面構 片岡球子展 たちむかう絵画」@そごう美術館

美術

2023年がスタートしました。美術好きはどの展覧会(美術館)を”初詣”しようかと検討中の人もいるかと思います。

私もその一人で、基本的には東京国立博物館に行くのですが、今回は年末から気になっていた「面構 片岡球子展 たちむかう絵画」@そごう美術館に決めました。

ポスターからもエネルギーが放出されている片岡球子の芸術から目を逸らすことができず、東京からはやや遠出ですが、今年はここからスタートするべきだという直感に従い、行ってきました。

展覧会概要

片岡球子〈1905(明治38)年-2008(平成20)年〉は、北海道札幌市生まれ。1926(大正9)年女子美術専門学校日本画科高等科を卒業後、神奈川県横浜市の大岡尋常高等小学校(現横浜市立大岡小学校)に勤めながら創作を続けました。(中略)

再興第51回院展より開始した「面構」シリーズは、1966年から2004(平成16)年までの38年間で44点を出品、片岡球子のライフワークとなりました。『面構は顔だけを描いているだけでなく、その人間が現代に生きていたらどんな風に役立つかなどと、思いながら描いています。』片岡球子の言葉にあるように、「面構」は単に歴史上の人物の肖像ではありません。人間の「魂」を描きたいと考えた片岡球子が取り組み続けた作品です。

展覧会チラシより引用(強調は筆者)

片岡球子の作品には、赤富士など他にも代表作が多くありますが、今回の展覧会では「面構(つらがまえ)」シリーズに絞って、シリーズのほぼ全部を一望できます。

※片岡球子の代表作や生涯については下記の本がおススメ

歴史に立ち向かい、己を取り巻く環境に立ち向かい、そして己の芸術に立ち向かい、確固とした個性を確立した片岡球子。描かれた歴史上の人物の「魂」と片岡球子自身の「魂」が重層的に重なって生まれた「面構」シリーズを堪能できる展覧会です。

「面構 片岡球子展 たちむかう絵画」

会期:2023/1/1~1/29 ※会期中無休
会場:そごう美術館(横浜そごう6F)
開館時間:午前10時〜午後8時 ※入館は閉館の30分前まで
入館料:一般1,400円、大学・高校生1,200円、中学生以下無料
展覧会HP:https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/archives/22/kataokatamako/

展覧会の感想

圧巻の「面構」シリーズ

「面構」シリーズ、実は足利尊氏ら将軍を描いた作品くらいしか知らず、シリーズの全貌を把握しないまま行ったのですが、まず作品点数が思っていた以上に多かった。

本展では、シリーズ44点のうち42点と、下絵などの関連資料が展示されています。

「42点ならそんなに多くないじゃん」と見くびるなかれ。1点1点、画面の中で画家のエネルギーが充満しているので、解説も読みながら見ていくと、結構なカロリーを消費する。展覧会タイトルにも「たちむかう絵画」と題するだけあって、片岡球子の芸術に触れるには、こちら側も「絵の前に立つ」という吞気な気分ではいけない。「立ち向かう」構えでいないと気圧されてしまう。そのくらい圧巻。

虚と実が入り混じる不思議な世界

「面構」シリーズは、為政者や僧侶だけでなく、葛飾北斎や歌川広重、国芳、国貞、東洲斎写楽などの浮世絵師、鶴屋南北や河竹黙阿弥といった歌舞伎の狂言作者、山東京伝ら読本作者も描かれている。

そうした作品では本人の肖像の背後に、彼らが手掛けた作品や、その登場人物などが描かれているのだが、その中でも、絵や芝居の登場人物(いわば虚構の世界の人物)を、メインとなる作者(画家)と同じ空間にいるかのように描いている作品が大変興味深かった。

そうした作品は例えば《面構 歌川国貞と四世鶴屋南北》とか《面構 狂言作者河竹黙阿弥・浮世絵師三代豊国》というように、2人の人物が対峙するような構図が多い。画面両端で対峙する二人の間に、彼らと同じく等身大で、虚構の世界の登場人物が描かれている。こうした作品を見て思ったことは、

ジョジョのスタンド対決みたい

荒木飛呂彦作の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部以降の設定である「スタンド」(持ち主の超能力的力をイメージ化したもの、守護霊的なものをイメージすればいいだろう)。虚構の世界の人間が、まるで現実世界の中にいるかのように、実在の人間と同等の筆の入れようで存在する。その描き方が「面構」シリーズと「ジョジョ」で共通しているように思えた。

持ち主の力をイメージ化させて対峙させるーージョジョよりも前に、片岡球子がすでに「面構」シリーズでやっていたとは恐れ入った。

その他にも鎌倉・室町時代など過去の時代の僧侶と、制作当時に存命だった僧侶を対峙させるなど、「面構」シリーズでは、時空間を超えた共演が実現しているのも特徴の一つ。

よもつ
よもつ

今回の展覧会の作品を見ただけでも、片岡球子が歌舞伎に精通していることがうかがえたので、こうした「虚」と「実」のないまぜ、時空を超えた設定というのは、歌舞伎の世界からも影響があったのではないかと想像した。

雪舟シリーズ4点の変遷が素晴らしい!

「面構」シリーズで、片岡球子は画僧・雪舟を4回描いている。今回の展示でその4点が並んで展示されているのだが、その変遷が実に面白い。

最初の1点目は、雪舟の肖像画や、代表作《山水長巻》の雪舟の筆致や構図をきちんと踏襲して描かれている。水墨画である《山水長巻》を描いた部分で、数か所にビビットな群青でアクセントをつけるなどはしており、「片岡球子様式」へのアレンジが控えめ。

2点目も《山水長巻》を描いた部分は、雪舟様式を踏襲しており、比較的きちんと元になった作品に寄せている。ただ、1点目よりは「片岡球子様式」の割合が増えてくる。ちなみに1点目、2点目は雪舟の肖像と、《山水長巻》の一場面の部分は明確に区切られた構図になっている。

3点目になると「雪舟様」はどこへやら、《山水長巻》の中にいた山道を歩く人物たちは、球子らしい緩い線でのびのびと描かれ、雪舟の肖像もその《山水長巻》の世界の中に入り込むように描かれ、両者の境界がなくなっている。雪舟の顔も1、2点目は元の肖像画に近い顔だったのに、3点目では「片岡球子様式」の顔へと変わっている。

4点目になると、雪舟と鎌倉~南北朝時代の僧・夢窓疎石の二人が画面の両端で対峙し、両者の間に片岡球子の代名詞・赤富士が描かれている。「片岡球子様式」の中に雪舟がいるという感じだ。

1・2点目は「雪舟に立ち向か」っていたのが、3点目で「雪舟を自身の様式に組み込み」、そして4点目で「雪舟を飲み込んだ」!!

水墨画を大成し、画聖と称される雪舟を飲み込むとは!!!畏怖の念さえ感じる所業。

「面構」というタイトルの妙

いつも展覧会に行く前は気合を入れるためにコーヒーを飲むのだが、今回は時間の関係もあってコーヒーを飲まずに乗り込んでいってしまって後悔した。片岡球子という画家のエネルギーに向き合うのに、正月休みの気分が抜け切れていない状態では到底歯が立たなかった。そう思わせるくらいに圧巻。

そして、改めて「面構」というシリーズのタイトルの妙に納得した。「面構え」という言葉の意味を調べると、「顔つき。特に、強そうな顔のようす」と出てくる。「顔つき」の意味をさらに調べると「気持ちを表す顔のようす」とある。

つまり、単に表面上の形ではなく、その内に秘めた感情、性格、生き様…そうした内面性が表面に現れたことを示す言葉であり、冒頭で展覧会のチラシの引用にもあった「魂」を描こうとする片岡球子の狙いを実に端的かつ強烈に伝えるタイトルだ。

「面構」シリーズの魅力は、決して全員が「威圧的」に描かれている訳でなはいところだ。面構えという言葉にはそうした強いニュアンスが含まれているが、少なくとも片岡球子が描く「面構」シリーズは、その人物の「本質」を描こうとしており、例えば僧侶には静かだけれども厳かな雰囲気が漂う。足利義政は神経質で少し沈鬱層に見えるし、鳥居清長などは気が弱そうだったりする。

歴史の中で単一的なイメージで固定されてしまった人物たちを、片岡球子は今一度「一人の人間」として、魂を、血肉を与えようとしたからこそ「面構」なのだ。(たしかに「面構え」という言葉は少なくとも生きている人に対してしか使わないような気がする!)

今年の展覧会初めに「片岡球子展」を選んで大正解だった!!

グッズにも注目!

本展では、展覧会図録の他にポストカードやクリアファイル、マグネットがグッズで売ってました。
ポストカードは「面構」シリーズのほかに、片岡球子の代名詞・赤富士もありました。

ただいま「図録プレゼント」キャンペーン実施中!

競争率が高くなるので本音は拡散したくないのだけど、展覧会の会期中、美術館公式twitterで図録プレゼントキャンペーンも実施中です。

よもつ
よもつ

本当は買うのがいいんだろうけど、ここは今年の運気を占うおみくじ気分で応募してみてはいかがでしょうか!当たるといいな~。

コメント

タイトルとURLをコピーしました