リニューアルオープンした藤田美術館で、贅沢な美の世界を一服

美術

大阪・京橋にリニューアルオープンした藤田美術館。茶道を学ぶ者として一度は訪ねてみたいと思っていた美術館の一つですよね。そこでGWの初日、念願の藤田美術館を訪問しました。

藤田美術館とは?

美術館の歴史~ひとりの実業家の美術への情熱によって誕生~

藤田傳三郎の肖像写真

明治時代に大阪で活躍した実業家で近代数寄者の一人であった藤田傳三郎(1841-1912)は、当時日本の文化財が海外に流出していくことに危機感を覚え、私財を投じて日本美術の蒐集をします。その意志は息子の平太郎、徳太郎に受け継がれ、膨大なコレクションを築き上げました。

そして、集めた美術品は秘蔵するのではなく、広く公開し、美術を愛する者、研究する者の眼に触れることを望み、1954年に藤田美術館が開館。開館時の美術館は、元々藤田家の蔵であったのを再利用したもので、1945年の大坂大空襲の時に焼失を免れ、藤田家の至宝を守り抜いた蔵でした。その美術館が2016年に一時休館。

そして2022年春、藤田美術館が新しい門出を迎えました。リニューアルオープンした美術館は、正面は開放的な近代建築となり、ガラス張りのエントランスは内と外がシームレスになるよう設計されています。

主なコレクション

近代数寄者の一人である藤田のコレクションの軸は、何と言っても茶道具。その中でも特に曜変天目は世界中に3碗(4碗とも)しかない名碗中の名碗です。まるで満点の星が輝く夜空、あるいは宇宙のような輝きを放ち、これまでも度々展覧会などで多くの人を魅了してきました。最近だと下記の展覧会が記憶に新しいですね。

  • 藤田美術館の至宝 国宝窯変天目茶碗と日本の美」@サントリー美術館(2015)
  • 名画の殿堂 藤田美術館」@奈良国立博物館(2021)

ちなみに『なごみ』2022年4月号では、リニューアルした藤田美術館の特集が組まれています。美術館についての基礎情報&見どころ、代表的な作品などがコンパクトにまとまっており、事前の予習&ガイドブックとして最適です!

藤田美術館での鑑賞は、まるで茶会

今回初めて藤田美術館を訪れましたが、国公立の美術館・博物館での鑑賞がほとんどの私にとっては新鮮な体験となりました。そして、それこそが藤田美術館の”核”と言えるのです。

では、早速美術館の中に入っていきましょう。

藤田家の蔵に入り込む!

この写真は、展示室内に入る扉の入口。この重厚な扉の先に燦然と輝く名品たちが私たちが入って来るのを待ってくれています。大阪大空襲の時でさえ災禍から名品たちを守った蔵の扉、風格が漂います。黒々として見るからに重厚なその扉には、これまでの長い歴史と、”日本の美”を守るという使命が備わっているんですね。その扉から展示室に入るのは、本当に蔵の中に入る感覚にもなり、ちょっとドキドキします!

ちなみに扉の左右はこんな感じ。モダンな建築と重厚な蔵の扉が絶妙なバランスで成り立っています。受付カウンターなどはなく、扉の近くに並びます。入場を待つ間にスタッフさんが来てその場で入館料を決済します(クレジットカード決済)。

作品鑑賞は”一座建立”

藤原佐理《去夏帖》

展示室へは、数人単位で入って行きます。最初の部屋には、一本の木の柱。案内スタッフから、この柱が前の美術館の梁であったとの解説が始まります。藤田美術館の歴史に思いを馳せるプロローグといったところ。

茶席で例えるなら、さながら”控えの間”と言ったところでしょうか。それほど長くはないこの導入の時間によって、私たち鑑賞者は「美術館での鑑賞」モードから、「茶席に招待された客」モードにスイッチが切り替わります。

そして、私が訪れた時の最初の展示作品は《去夏帖》(写真)。ここでも、茶室に入り床の間に飾られる軸を拝見するかのように、たった1つの作品に向き合い集中する、そうした美術館の意識がうかがえます。

3つのテーマからコレクションを紐解く

藤田美術館では、時期によって毎回3つのテーマで構成された展示を行っています。3つのテーマは、それぞれの期間が少しずつずれているので、3か月ごとに訪れれば、全てのテーマ展示を見ることができるようになっているとのこと。

私が訪問した4月29日は、「阿」「赤・朱」「曜」の3つのテーマの展示が開催されていました。

阿~すべての始まり~

「阿」とはすべての始まりを意味する梵字。美術館の再出発を記念して、藤田美術館のコレクションの中核となる様々な茶道具の名品を、蒐集にまつわるエピソードと共に披露します。

特に交趾大亀香合田村文琳茶入の二品の邂逅にまつわるエピソードは、藤田傳三郎の生き様、また藤田美術館の礎を象徴するものでしょう。

左が《田村文琳茶入》右が《交趾大亀香合》、画面奥が《国司茄子茶入》。

私は、上述したサントリー美術館の展覧会でも、この交趾大亀香合と田村文琳茶入を見ていたので、ここで再び再会。でも香合は「こんなに大きかったっけ?」って思う程、記憶のイメージより大きかった!

交趾大亀香合は、傳三郎にとって人生で最後の蒐集品となったものです。傳三郎は田村文琳茶入とこの香合を合わせて茶会で使いたいと言っていたようです。

赤・朱~命煌めかせる色~

二つ目のテーマは「赤・朱」。赤は仏画では仏の姿の線描に用いられたり、鳥居など寺社建築でも多く用いられる神聖な色の1つで、また炎の色でもあり、「赤・朱」には心を奮い立たせる力が備わっています。茶の湯の世界では「赤樂」というように樂茶碗における重要な色でもあります。

多岐にわたるコレクションから「赤・朱」に焦点をあて、その色の持つ力に迫ります。

赤楽茶碗 銘園城寺

曜~曜変天目の青、禅僧の黒~

曜変天目茶碗

藤田美術館のコレクションの中でも最も有名な曜変天目茶碗。その眩さは星空、あるいは宇宙と表現されることもしばしば。また天目茶碗は唐物の中でも上位とされ、特に曜変天目茶碗は最高峰と評されるました。一方、茶道において最も重要とされる軸は禅僧の墨跡。墨で認められた書に精神性が宿ります。

漆黒に浮かぶ煌めく青い斑点、確かな筆で雄弁に物語る墨跡の黒を、静かに、じっくりと味わいます。

ちなみに、作品解説は美術館HPからでも見ることができます。
EXHIBITION | 藤田美術館 | FUJITA MUSEUM藤田美術館 | FUJITA MUSEUM
この解説ページの素晴らしい点は、書画の画像が表装込みであること。茶の湯の世界では"裂"も重要な要素。藤田美術館のコレクションは、学術(美術史)的に価値のあるものが多いですが、その側面だけでなく、茶道具としても愛でられ用いられてきたという背景、茶の湯の文化を守り伝えようとする姿勢を感じます。
展示室を出ると、目の前には小さな蔵の窓から覗く新緑が清々しい。

庭園で四季の移ろいに身を浸す

展示室を出ると藤田邸の庭園が広がります。まずはその多宝塔の存在に驚かされます。この多宝塔は元は紀州高野山にあったもので、息子の平太郎氏が移築したのだそう。

庭園内の多宝塔

天気の良い日にはこの庭園を散策するのも気持ちがいいですね(この日は土砂降りだったので、庭園には出ず…もったいないことしたな、と今更後悔)。

ミュージアムカフェ「あみじま茶屋」での一服はマスト!

ミュージックカフェ「あみじま茶屋」では、お団子とお茶のセット(500円)が楽しめます。お団子は「しょうゆ・あん」の2つで、お茶は「抹茶・煎茶・番茶」の3種類から選ぶことができます。

目の前でお茶を淹れて(点てて)くれ、お団子もその場で焼いてくれるので、焼きたてのお団子とお茶が身体に染み渡ります。お茶碗も現代の若手作家による作品。店頭に置いてあるリーフレットのQRコードを読み取れば、作家の情報を知ることができます。どのお茶碗になるかはお楽しみ。

近代数寄者であった傳三郎によって創立された藤田美術館だからこその、おもてなしの心が詰まっています。お茶とお団子を受け取ったら、カフェエリアで自分の好きな場所に座って一服。

しょうゆのちょっと焦げた風味が絶妙の味わい。名品を味わった後の一服は最高の時間です。

ちょっとした注意点&アドバイス

このように、素晴らしい空間で名品との出会いを堪能し、終われば茶屋での一服と、ゆったりと贅沢な時間をすごく事ができる藤田美術館ですが、少し注意が必要かなと思う点もあったので、参考までに私が体験して感じた点を3つ紹介します。

①大型のコインロッカー(クローク)はないので、キャリーケースは置きっぱなしになる

手荷物が入る程度のコインロッカー(駅などで300円位のサイズ)はありますが、キャリーケースが入る程の大型のコインロッカーはありません。また受付・クロークもないので、大型の荷物はコインロッカーの空いたスペースにそのまま置いておくことになりますので、遠方の方は注意が必要です。

エントランス(展示室入口)に対して側面のところにコインロッカーがあるため、入館手続きをするスタッフたちの視野からも外れるので、どうしても気になる方は事前に駅のコインロッカーなどをご利用ください

②展示作品の解説は手持ちのスマホ(美術館のwi-fi接続)⇒充電に余裕を!

作品名・作者名は展示室内に掲示されていますが、詳しい解説は手持ちのスマートフォンで読むようになっています。展示室に入る前にスタッフがQRコードを提示し、鑑賞者は美術館のwi-fiに接続し、解説ページのQRコードを読み取ります。

私の場合、なかなか美術館のwi-fiがつながらず、展示室内に入って最初の数分は解説ページに接続されない事へのイライラが若干募ってしまいました(こういう心地になるべきではないのでしょうが…)。

とりあえず展示室の奥まである程度進んでみると、いつの間にか接続されていました。入口付近で中々接続されない場合は、展示室の中をウロウロしてみるのが良いかと思います。

また展示作品は撮影OKなので、解説を読んだり写真を撮ったりと、スマートフォンが活躍するので充電はなるべく余裕があるようにしておくことをおススメします!

③雨の日でも大丈夫!京橋駅の高架下を歩けば、道中の90%位は雨回避できる

最寄り駅は、JR 大阪城北詰駅 3番出口(徒歩1分)、京阪京橋駅 片町口(徒歩10分)、大阪メトロ長堀鶴見緑地線京橋駅 2 番出口(徒歩7分)と、京橋駅からはやや歩きます。

雨の日にはちょっと億劫になる距離ですが、京橋駅からでも高架下をずっと歩いていけば、ほとんど雨に濡れることはありませんので、京橋駅から行く人も雨だからって行くのを諦めなくてもOK!

美術館情報

日本美術史においても至宝レベルの名品を、じっくりと作品と向き合える贅沢な空間で味わえる藤田美術館。ぜひ季節ごとに足を運んでみてはいかがでしょうか。

藤田美術館
場所:大阪市都島区網島町10番32号
開館時間:10:00~18:00 
休館日:年末年始のみ
入館料:1,000 円(19 歳以下無料)
美術館HP:https://fujita-museum.or.jp/

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