年末からずっと行きたかった三井記念美術館の「熊野御幸記と藤原定家の書」展。年が明けて、いよいよ閉幕が近づいてきたので、ようやく訪問してきました。

眼福の第1章「茶人好みの定家様」
「さてさて、どんな作品がでているかな」と思って最初の展示室に入って早々にノックダウン。こりゃ大変だ。第1章は「茶人好みの定家様」と題し、三井家旧蔵の茶道具が並ぶ。
江戸時代の大名茶人・小堀遠州が定家の書を好み、「定家様」の書風で箱書きをしました。(かなり独特な書体なので、一度見たらすぐに覚えられる)そんな遠州に私淑した松平不昧(ふまい)が遠州が見出した茶道具を「中興名物」として定めた。
第1章ではそうした中興名物の茶入や、遠州が和歌を認めた色紙などから、茶の湯の世界に漂う定家の面影を感じ取る。
茶道をしている者としては、一番この展示室に長くいたのではないか、というくらい1点1点から目が離せない。特に中興名物に指定された茶入、銘「二見」や銘「筧」、銘「卯花」のそれぞれの味わい深い佇まいに引き込まれる。
その他、《竹二重切花入 銘白菊》のまるで山の稜線のように見える景色の味わい、《菊蒔絵面取茶箱》に収められていた《飴釉籠目茶器》(竹細工の籠を陶器で模した茶入)の遊び心など、「これでお茶会したらさぞ楽しいだろう、さぞ風流だろう」という品々ばかり。
小倉色紙「うかりける…」&茶道具取り合せ
三井記念美術館の第2展示室は一際特別な空間。どう特別かというと下の写真の通り。

たった1作品のための展示空間になっているのだ。といっても、実際の展示室内は撮影NGで、この写真はショップの前にあるフォトコーナー。三井記念美術館のフォトコーナーは毎回この展示室の再現になっていて、推しのぬいぐるみやアクスタと一緒に撮影できる仕様。いわばミニチュアで説明をするのもいかがなものかと思うが、本物は撮影できないので仕方がない。
小倉色紙は、藤原定家の日記『明月記』文暦2年(1235)5月に、「嵯峨中院障子色紙形」に天智天皇以下100人の和歌を書いたという記事があり、これが百人一首の小倉色紙とされています。定家の子の為家の妻の父宇都宮頼綱(蓮生)に依頼されたもので、定家は74歳でした。
当館の小倉色紙[図3]は、百人一首としては74番の源俊頼の和歌「うかりける人をはつせのやまおろしよ はげしかれとはいのらぬものを」で、この歌は『千載和歌集』に入っています。
美術館HP(https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html)より一部引用
この「うかりける…」の字が、一文字一文字が独立して、穏やかな味わいがある。「平安かな」いわゆる「古筆」というと文字が連綿と続く流麗な書風がイメージされる。そうした書体の美しさはもちろんあるが、この一画一画、ぽってりと墨がついている感じがなんとも愛らしく心地いい。
そうして、続く茶室の展示(織田有楽斎
の茶室「如庵
」を写した茶室に、茶道具一式を取り合わせた展示)では、床の間に伝後鳥羽院とされる和歌懐紙「古郷草花」の書が飾られ、それらと共に御所丸茶碗や菊蒔絵大棗が飾られている。本展のメインである「熊野御幸記」に沿って、天皇にゆかりある品、あるいはそうした宮中の世界を彷彿とさせる取り合せとなっている。備前水指も銘が「さざれ石」。
個人的には「古郷草花」の左下に向かって流れるように書かれた書と備前の水指が取り合わせられていることで、自分の故郷を思い起こし、しみじみとしてしまった(出身が岡山のため)。
国宝 熊野御幸記と大嘗会巻、百人一首かるた
そうして、ようやくメインの展示室へ。ここではまず藤原定家の肖像画が3点並ぶ。

「定家、お前イケメンだったのか」っていうくらい端正に描かれている定家。この写真の作品を描いたのは、似絵(にせえ)の名手・藤原信実
(1176〜1265)とされているが、絵自体は江戸初期まで下るとのこと。

展示室の中央に据えられているのは、円山応挙の《若松図屏風》。金地に墨で若松が描かれており、新年(を迎える)に相応しい作品。瀟洒ながら目出度い一作。
そして、本展の最大の目玉である「熊野御幸記」。藤原定家が後鳥羽院の4回目の熊野御幸に同行した際の、いわば旅ログ。京を出てから戻って来るまでの23日の様子が記録されており、乱筆だったり、書き損じたりしている箇所もあり、生々しい。

その他、定家による《大嘗会巻》、そして定家が定めた百人一首にまつわる資料として、百人一首かるたなども展示されている。


展示されている百人一首かるた、『光る君へ』の登場人物たちが大集合!といった様相で、ドラマで生きた人間として彼らの姿を見ていると、こうしてかるたに描かれてる姿もなんだか微笑ましく見えてくる。『ちはやふる』の若宮詩暢の気持ちが少し分かった気がした。
遠州の「定家様」、歌仙絵
後半は、藤原定家に魅了された小堀遠州による「定家様」の書や古筆、また歌仙絵など、藤原定家を軸にして広がった書、和歌の世界を味わう。
展示室の最後に重要文化財《東福門院入内図屏風》が展示されていた。六曲一双の大きな屏風を埋め尽くすように、入内の際の行列の様子が描かれているのだが、その人物一人一人の名前が人物の傍に書かれていて、「これは現代のメンション(タグ付け)っぽいな」と思ってしまい、ちょっと微笑ましい。
年末年始を飾るにふさわしい格調高い品々が揃う展覧会で、目出度く、目で味わい、心はずみ、知が喜ぶ展示でした。

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