ただいま千葉市美術館で『亜欧堂田善 江戸の洋風画家・創造の軌跡』が開催されています。その前期展示の最後の土曜日に行ってきました。
亜欧堂田善とは?
亜欧堂田善と聞いて、すぐに作品が思い浮かぶでしょうか?日本美術が好きな方は、江戸時代の展覧会などで銅版画、もしくは油絵の作品を見たこともあるのではないかと思います。しかし、葛飾北斎や伊藤若冲、尾形光琳などに比べると、まだまだ知名度は低いと言わざるを得ないでしょう。
そんな「知る人ぞ知る絵師・亜欧堂田善」をテーマにした展覧会は首都圏では17年ぶりとのこと。
展覧会の見どころ
詳しいレビューの前に、今回展示を見た中で。私の思ったこの展覧会の見どころ(展覧会の意義)について簡単に紹介します。
「画家・亜欧堂田善」の人物像が浮かび上がる
亜欧堂田善の作品は、これまでにも展覧会で見る機会はありました。しかし、多くの場合「江戸時代の油彩画/銅版画」の一例として1点~数点の作品が展示されていたので、亜欧堂田善という画家の人生や画業全体にはあまり意識が向きませんでした。
しかし、この展覧会では田善の若い頃の作品や、江戸で銅版画や油彩画の制作に勤しんだ後、晩年地元に戻ってからの日本画の作品なども展示されています。そこから「亜欧堂田善」という実に不思議な名前を付けたひとりの画家の生涯、人物像が浮かび上がってきます。
晩年の頃に描いた山水画など、今まで見たことなかった作品も多く展示されていました!
圧巻の展示点数から銅版画・油彩画の受容の大きさを知る
田善一人に焦点を当てることのもう1つのポイント(意義)は、田善の生涯や画業全体が分かるという点だけでなく、江戸時代の銅版画・油彩画の一例としてだけで扱うだけでは見えてこなかった銅版画や油彩画の受容の大きさを感じることができます。
今回の展覧会では、現在知られる田善の銅版画約140点が網羅的に展示されています。その中には江戸時代の名所図シリーズや、西洋書物から図像を借りたもの、芝居の一場面など、画題は思っていた以上に多彩です。
後半にも書きますが、銅版画の章では、イメージソースになった西洋の銅版画、書物なども展示されており、どこの図様をどう借りてきて作品を作ったのかが分かるようになっています。どこからイメージを借りて、どういう媒体で、どういう図様を使って新しい作品を作るのか、そしてその作品はどういうところで受容されていくのか、という銅版画というジャンルが日本でどのように形成されていったかを知ることができます。
展覧会レビュー:①油彩画
展覧会は、まず田善の若い頃の作品や、地元である福島県須賀川にゆかりのある作品が展示されています。続いて紹介されているのが、田善の画業における1つ目のトピック「油彩画」です。
江戸時代の油彩画の2トップが司馬江漢と亜欧堂田善。どちらがどんな風な作品か、どんな功績を残したかと言われると混乱しそうですが、油彩画においては「司馬江漢が先駆者」で、田善は一説には江漢の弟子になっていたこともあると言われています。
展覧会では先駆者・江漢の作品も展示されており、江戸時代における油彩画の制作の変遷も見ることができます。
田善の油彩画(風景画)は鑑賞者に対して背を向けて歩く2人の人物が特徴的だと感じました。この人物を置くことで、まるで鑑賞者も画面の中の風景に入こんだかのような錯覚を起こさせる機能があるように感じました(ちょうど自分たちの前を歩く人を見るような感覚でしょうか)。
江漢と田善については、会場内で次のようなエピソードも紹介されていました。
《エピソード》日本に生まれし阿蘭陀人
展覧会会場内キャプションより、内容を要約
司馬江漢は、はじめ田善に対して「その性遅重にして偉業運用に疎し」として破門するが、のちに後悔し「日本に生まれし阿蘭陀人なり」との言葉を残した。
遠近感など西洋風の技法を使いつつも、遠景の松の描写は水墨画でよく見るような形だったりするので、その和洋折衷な感じが独特の雰囲気を醸し出しています。
展覧会レビュー:②銅版画
今回の展覧会のメインビジュアルにもなっているのが、銅版画。細かく線を彫って濃淡をつけて図像を表していく銅版画は、実に緻密な作業です。
超絶技巧が光る!
本展では一部の作品で撮影OKで、銅版画では《銅版画東都名所図》シリーズが全点撮影OKでした。(その他は前出の油彩画《江戸城辺風景図》と、解剖書『医範提鋼内象銅版図』)
《銅版画東都名所図》では、ポストカードくらいのサイズに、緻密な線で江戸の街並みの風景が、文字通り刻み込まれています。
特徴的なこの両国の花火の煙やジグザグの火花の表現も西洋の書物から図様を借りてきています。この応用力がスゴイ!
撮影はできませんが、本シリーズの銅版自体も展示されていました。
布に描いた作品がオシャレ!
田善に対して銅版画か油彩画のイメージしかなかったのですが、展覧会では田善の版画の図様を使った布なども展示されています。銅版画が布製品の図様になる例を全く知らなかったので、「こんな作品も手掛けていたのか」というか、「田善ってこんなに手広く作品を作っていたのか」ということに驚きで、この展覧会で一番の発見でした。
そして、これがオシャレ!!
銅版画も油彩も、当時の知識人(文化人)の間で熱心に取り組まれる蘭学との関係が非常に大きいので、どちらかというとアカデミックな世界で受容されたイメージでしたが、煙草入れなど日用品の図柄として親しまれていたことに、銅版画、そして亜欧堂田善という画家のイメージが覆りました。
田善ファブリック、ぜひ展覧会グッズでスカーフとか手ぬぐいとかにしてほしかった。
重文《浅間山図屏風》の稿本との見比べが可能
展覧会の中で一番興味深く感じたのは、《浅間山図屏風》の稿本の展示です。重要文化財にも指定されている《浅間山図屏風》(東京国立博物館所蔵)は、残念ながら前期展示では展示されていませんが、その作品の下絵となる稿本が展示されていました。
この稿本と《浅間山図屏風》のポイントは、稿本段階では人物が二人、あるいは一人いたのが、再私有的には人物がいない風景になっていること。
最初の段階では、そびえる浅間山と仕事をする人物の対比で構想を練っていたようですが、まず2人だったのが、別の稿本では1人になり、そして最終的な屏風では人物が消えるという、田善の試行の様子か分かります。「そして誰もいなくなった」状態。《浅間山図屏風》に感じた「なんとなく不思議な感じ」「人気のない寂しさ」「意味深に置かれた丸太」も、この経緯が分かれば納得です。
展覧会概要
展覧会限定メニュー「おでん膳」も要チェック!
本展では、展覧会限定メニューとして「”亜欧堂”おでん膳」が登場。
この思い切りのいいダジャレ!!!(笑)嫌いじゃないぞ。私は夜間開館のタイミングで行ったのでおでん膳はたべられませんでしたが、これはぜひとも試したい逸品。(数ある展覧会限定メニューの中でもハイクオリティのダジャレ&メニューではないだろうか)
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