歌舞伎に興味があるけど「どんな作品があるのか全然知らない」「江戸時代の話って本当に楽しめるの?難しくない?」など、不安に感じている人もいるのではないでしょうか?この記事では、歌舞伎鑑賞デビューをしようと思っている方に向けて、私の経験などを踏まえて、どの公演を観に行くのか、選ぶポイントをお伝えします。
私がおススメする公演の選び方
歌舞伎なら何でも良いの?どれを見てもいいのか?
人それぞれだと思いますが、私の場合は「NO」です。
一口に歌舞伎と言っても作品のバリエーションは多種多様です。たとえば、「ダンス」といってもヒップホップ、ロック、ジャズ、タップ…と様々なジャンルがあり、それぞれ雰囲気も使うスキルも違う、ダンサーも得意なジャンル、見る人の好みも違いますよね。それと同じで、いきなり観に行った演目が自分好みのジャンルであれば幸運ですが、「思ってたのと違う…」となって、せっかくの歌舞伎デビューがイマイチな印象になったらもったいない!
そこで、なるべくそうしたズレが起きないよう私の経験上の選び方をご紹介します。あくまでも個人的な経験や考えなので絶対ではありませんが、ぜひ参考にしてみてください。
周りにいる”歌舞伎ファン”のススメに従う
いきなり他力本願-!!と思うかもしれませんが、テレビ番組の『アメトーーク』や『マツコの知らない世界』など、何かしらの熱心なファン(オタク、マニア)の人々の話は、その事に興味なかったとしても面白く感じますよね。歌舞伎もその沼にどっぷりとハマっている人に聞くのが良いでしょう。
可能ならその方と一緒に行くと、なお良しです。演目や俳優について知っていることもメリットですが「こういう時はイヤホンガイドを借りた方がいい」「歌舞伎を観る時はお昼は必ず○○に行く」「劇場の中のこのお店に名物の〇〇がある!」など、歌舞伎鑑賞を楽しむための独自のノウハウを持っていると思うので、そうした”楽しみ方”を知っている人と一緒に行くと、一人で劇場に乗り込むより多くの気づきや楽しみポイントを見つけることができると思います。
私の歌舞伎初体験は大学生だった時、根っからの歌舞伎好きの友達に「(15代目片岡)仁左衛門さんがかっこいい‼」と熱弁され、一緒に舞台を観に行き、どうかっこいいのかを聞くのはもちろん、毎年年末の「顔見世興行」を見ているとか、どこで弁当を買っているとか、”通”である彼女の観劇スタイルを教えてもらい、「歌舞伎の世界を味わった」という感覚を体験しました。
人間国宝の俳優の出演作を選ぶ
周りに詳しい人がいない場合は「人間国宝に認定されている俳優が出演する作品」を選ぶのが良いと思います。現在人間国宝に認定されている方は次の5名(2022年3月現在、認定順)。
- 6代目澤村田之助(脇役)
- 7代目尾上菊五郎(立役)
- 5代目坂東玉三郎(女方)
- 15代目片岡仁左衛門(立役)
- 6代目中村東蔵(脇役)
現在も舞台に立っているのは下の4名、そして尾上菊五郎丈、片岡仁左衛門丈、坂東玉三郎丈が主役級の俳優なので、「この3人の舞台をまず観る」と決めると良いでしょう。テレビでは20~40代の歌舞伎俳優を見かけることが多く、上記の俳優は今の若い人にはあまり馴染みがないかもしれません(玉三郎さんは大河ドラマ『麒麟がくる』に出演して話題になりましたが)。「知らない人より知っている人の舞台を観る方が良いのでは」という意見もあり、かつては私もそうに思っていましたが、「歌舞伎は上手い人のを観るのが一番面白い」との言葉を人から言われたことがあり、今はその意見に賛同です。
歌舞伎の世界では30代は若手、40代も中堅。この世代のエネルギッシュな舞台も魅力ですが、歌舞伎の持つ「スケールの大きさ」「芸の深み」という点で、やはり大御所は圧巻。私も今からデビューする人に向けては、この選び方をお勧めします!!もちろん他にも上手くて魅力的な俳優はたくさんいるので、この基準はあくまでも初めての人の最初のとっかかり程度ですが、まず彼らを知らなければ始まらない!
菊五郎丈は「これぞ江戸っ子!」という感じの作品が多く、イメージとしては”陽”。粋な男前というカッコよさ。仁左衛門丈は理知的で陰(かげ)りのある”陰”のイメージ。どちらも色気があるけど菊五郎丈がカラッした色気、仁左衛門丈がしっとりとした色気。玉三郎丈は当代随一の美女!!まずもって美しい。もちろんその芝居も深みがあり、引き込まれてしまいます。
他にも坂田藤十郎丈、片岡秀太郎丈、中村吉右衛門丈と人間国宝に認定された名優がいたのですが、近年相次いで亡くなられてしまいました。「舞台は一期一会」とつくづく思う次第です。
またもう一つのメリットとして、皆さん70歳を超えているのもあり、演目も新作よりもこれまでに何度も演じてきた”当り役”をすることが多く、自然と「古典」演目を見ることができる点です(※興行によっては古典でも新しい演出だったりするので、若い俳優に比べて”比較的”ですが)。
新作でも素晴らしい作品は多いので、新作だから避けるという事ではないです!新作の場合は単純に自分の好みに合いそうかどうかで選べばいいと思います。
知っている物語(事件)、登場人物が出ている作品を選ぶ
日本史が得意な人、歴史物の小説やドラマが好きな人は、自分の好きな時代や物語を題材にしている演目から選ぶといいでしょう。歌舞伎では主に「源平合戦」「鎌倉時代」「忠臣蔵」、戦国時代の武将などが多く題材になっています。そうした自分の興味ある時代、内容で選ぶのも、もちろんOKです。
ちなみに、今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はまさに源平合戦の時代。脚本の三谷幸喜は2019年に歌舞伎座で「三谷かぶき」として歌舞伎作品の脚本・演出も務めたくらいなので、ドラマでも実は歌舞伎作品を踏まえた上での演出をさりげなく散りばめています。歌舞伎を知っていると、ドラマがさらに面白くなると思います!!
宮藤官九郎や野田秀樹など現在の演出家・脚本家の中でも特に古典芸能を熱心に勉強して自身の作品・演出に取り入れてるので、現代劇を楽しむ上でも歌舞伎、能、狂言・落語などの伝統芸能を知っているとより現在の天才たちの天才ぶりが分かります‼
知っている俳優or自分の”推し”と関連する俳優の出演作を選ぶ
上記3点の方法がどれもピンとこない、という人はやはり何かしら自分の身近なこと(既に知っていること)につながる方がストレスも少ないので、知っている俳優、もしくは自分の”推し”が歌舞伎俳優さんと共演経験があれば、その人を目当てにするのも良いと思います。ドラマやバラエティ番組での姿と歌舞伎の舞台での姿、そのギャップが楽しめることでしょう!
上演形態について
歌舞伎作品は頭から終わりまでやると1日かかるくらい長い物語なので、基本的にはその中でも人気の高い場面だけをピックアップして上演する興行形態になっています。これを「見取り(みどり)」と言います。”選り取り見取り”の”みどり”ですね。
反対に、1日または半日かけて1つの演目を上演する形態を「通し上演」と言います。時々この通し上演をしているので、その時には名場面の前後も知ることができます。
最初は”見取り”形式の上演に「…で、結局どうなるの??」と思うかもしれませんが、どんなに面白くて全話録画したドラマでも、後から見る時は自分の好きな回(シーン)ばかり見ることありませんか?その感覚と同じです。歌舞伎は物語そのものを楽しむと同時に(時にはそれ以上に)、「目の前の俳優の芸、舞台上の美しさに陶酔して気持ちよく帰る」というのが、醍醐味と言えるでしょう。
演目のジャンルについて
まずはこの3作品&3人の作者のキーワードを知ろう!
ここからは具体的な歌舞伎演目のジャンルについて説明します。400年以上の歴史を持つ歌舞伎。その中でも特に重要な3作品&3人の作者を紹介します。
この3演目、3作者の名前は歌舞伎では頻繁に目(耳)にする避けては通れない作品(作者)です。機会があればぜひ見ておきたい作品です。(ちなみに上の画像は『義経千本桜』を描いた浮世絵)
時代別の区分
江戸時代から幕末・明治初期頃までの作品を指します。
《特徴》
・義太夫(ナレーション的な役割をする)狂言が多く、重厚感がある。
・歴史的な伝説、事件などを扱った作品が多い。
・七五調(七音・五音の言葉で繰り返される独特のリズム)のセリフなど、歌舞伎ならでの技巧的な演出が楽しめる。
歌舞伎専属の作者(狂言作者)が芝居の台本を作っていたのが、明治以降は当時の小説家や歌舞伎通の評論家などが台本を書くことがあり、それらは「古典」に対して「新歌舞伎」と言います。
《特徴》
・古典に比べて史実に忠実なストーリー、あるいは写実性のある演出が多い。
・台詞が現代的なので、古典作品よりは聞きやすい。
野田秀樹、三谷幸喜、宮藤官九郎など現代の劇作家らによる脚本や、ワンピース歌舞伎といった 漫画など、新しく作られた作品。現代的な演出と古典の様式がどのように融合するかがポイント!
【先品例】
・蜷川幸雄:「NINAGAWA 十二夜」※シェイクスピアの「十二夜」を歌舞伎化
・野田秀樹:「野田版 研辰のうたれ」、「野田版 鼠小僧」
「贋作桜の森の満開の下」
・宮藤官九郎:「大江戸リビングデット」、「天日坊」
・三谷幸喜:「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」
・漫画原作:ワンピース歌舞伎、「NARUTO」、ナウシカ歌舞伎
新作は、古典や新歌舞伎のように繰り返し上演される機会は多くありません。また新作では最新技術を駆使したり、現代の演出家ならではの特殊な演出をすることも多いです。古典作品は重厚感と”これぞ歌舞伎”という演出が多いので、「歌舞伎らしさ”を感じたい!」という人は古典がおススメ。
内容による区分
- 時代物:武士や公家の世界を描いた作品。
(狭義には源平合戦~戦国時代の武将が主人公の作品、広義には江戸時代も。) - 世話物:町人の世界で起きた事件や人情ドラマなどを描いた作品。「世話」とは「世間の話」という意味。
- 舞踊(劇):踊りが中心。歌舞伎のために作られた作品や、能の作品を題材にした”能取り物”など多種多様。
時代物の特徴は重厚感あり、衣装や舞台装置が豪華。一方、台詞は史実や古典(文学、和歌など)を踏まえたものも多い。世話物は庶民の世界を題材にしていることもあって比較的理解しやすいと思います。作品によっては台詞やシチュエーションの説明がほとんどないので、初心者の人はイヤホンガイドがあった方がベター。
演出による区分
演出による区分には「荒事」「和事」があります。
荒事
コトバンク(世界大百科事典 第2版)
歌舞伎の演技様式の一つ。《暫(しばらく)》や《矢の根》の主人公,《曾我の対面》の五郎,《菅原伝授手習鑑》の〈車引の場〉の梅王丸などに代表される,稚気に溢れ,力に満ちた勇壮活発な人物の行動を表す。六方,見得,つらね,隈取,三本太刀など,独特の表現や小道具を伴うのが常で,7,8歳の子供の心で演じよとか,くくり猿のように体を丸くして演じよといった心得が伝えられている。語源は俗に荒武者事の略といわれているが,定かでない。
和事
コトバンク(デジタル大辞泉)
歌舞伎で、柔弱な色男の恋愛描写を中心とした演技。また、その演出様式。元禄期(1688〜1704)に発生し、主に上方の芸系に伝わった。
テレビや国家的なイベントのセレモニーなどでよく見るものの多くは「荒事」の作品です。とにかく見た目が個性的なので、限られた時間の中でインパクトと”歌舞伎らしさ”を伝えるのには非常に手っといですからね。
劇場・チケットの購入について
ざっくりと歌舞伎作品のジャンルや選び方を把握したところで、実際に歌舞伎公演について調べてみましょう!
歌舞伎が上演される主な劇場
歌舞伎を観ることができる主な劇場は上記の通り。「その他」の金丸座、八千代座、永楽館は、江戸~明治期に建てられた「芝居小屋」です。昔ながらの小屋なので大人数の大きな芝居はできませんが、江戸~明治時代の風情が漂う空間で歌舞伎を観ることができるので、大きな劇場で見る歌舞伎とも一味違う体験ができ
まずはこのサイトをチェックすればOK!
歌舞伎を観たいと思ったら、まずは次のサイトをチェックするのが一番手っ取り早いです。
歌舞伎美人(かぶきびと)
「歌舞伎美人」は、歌舞伎興行を行っている松竹が運営する歌舞伎の総合的な情報サイトです。公演情報の他、歌舞伎に関する特集記事も多い。
※国立劇場の情報は「歌舞伎美人」には掲載されていないので、国立劇場のHP(上記リンク)を見てください。
チケットの購入方法
歌舞伎の公演は下記サイトより購入可能。それぞれ会員登録(無料)が必要になります。松竹の劇場や国立劇場では劇場に発券機があるので、インターネット予約をして当日劇場で発券してそのまま入場のが一番簡単だと思います。
会員登録が面倒という方は、電話や劇場窓口での販売もありますので、各HPをご確認ください。
さいごに
長くなりましたが、ざっと歌舞伎の選び方、劇場やチケット情報をまとめました。皆さんの歌舞伎デビューの参考になれば幸いです!
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