6月29日に国立新美術館で開幕した「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」展。初日に早速行ってきたけど、これが素晴らしい展示だったので早速レポートします!
蔡國強とは
本展では、蔡の芸術活動の礎となった「原初火球」の再現展示をはじめ、芸術活動の初期から最新作を含め、これまでの作品、プロジェクトを作家本人の言葉と資料と共に展観する大回顧展だ。「原初火球」は蔡にとって”宇宙の始まり”を意味しており、本展はまさに「原初火球」を蔡の芸術世界の原初と位置付け、その宇宙がどのように”ビッグバン”さながらに”爆発”したのかを一望する。
人類の叙事詩とシアトリカル
直前の文で「一望する」と書いたが、これは比喩でもなんでもなく、本展では本当に”一望”できるように、展示作品は巨大な1つの空間の中に収まっている。柱やパーテーションはなく、展示空間が1つの”宇宙空間”となるように設計されている。
展示室内に入ると、まずはそスケール感に圧倒され、無条件で興奮する。
一番大きな展示室内では、大きく2つのブロックに分けられる。まずは副題にもなっている「原初火球」。新作3点(ガラスによる作品)も含めて、91年に発表した「原初火球」の屏風作品シリーズを再現するように展示されている。
放射線状に展示されるそれぞれの屏風は、ビッグバンさながらに広がる。その図様はまるで仏像の光背のようであったり、ピラミッドのような幾何学模様であったりと様々だが、そのシンプルさゆえに見る人のもつ文化的背景によって様々なイメージが投影されることだろう。
「原初火球」の空間を抜けると、次は「未知との遭遇」シリーズのエリアとなる。この作品群は、LEDライトを用いて、UFOや宇宙人(エイリアン)、アインシュタインの肖像や宇宙飛行士、ペンギン(?)、船、などなど、”宇宙”あるいは”飛ぶもの”を連想させる様々なモティーフを表したインスタレーションだ。遊園地の電飾(パレード)を見た時のようなワクワク感と共に、夜空を見上げた時の果てしない想像の世界へ鑑賞者を誘う。
そうしたシアトリカルなエリアの先にあるのが、《歴史の足跡》のためのドローイングだ。33メートルに及ぶ長大な作品は、まるで神殿に表された壮大な叙事詩のように、人類の歴史を彷彿とさせる。”爆発”という一瞬の出来事によって、”歴史”という永遠を物語ることができるとは…。
円環する”宇宙”
会場の中央は前述の通りメインとなる「原初火球」と「未知との遭遇」で構成されているが、周囲の壁は、初期作品から最新作まで、その他のプロジェクトの作品や資料、スケッチ、記録映像などが展示されて、壁を一周することで、作家の活動を辿ることができるようになっている。
これは、蔡の父親がマッチ箱に山水図を描いたものだ。”火薬”であるマッチが入った箱に山水図という”世界”を描く。そして、そこから数十年後に息子である蔡が”火薬”を使って”世界”を描くーーこんな出来過ぎた物語があるだろうか!!このマッチ箱をわざわざ展示していることがニクイ。
父親の描く山水図のマッチ(箱)が、蔡の芸術世界に火を灯したーーなんて洒落たことを言いたくなる物語の始まり方だ。
そうして展示室の壁を一周すると、最後は2020年代の最新作となる。これらの作品がちょうど初期作品のすぐ近くに展示されているため、会場全体が円環するように構成されている。
いわきと蔡
メインの展示室とは別に、さらに奥の小展示室では、「蔡國強といわき」と題し、1986年から1995年まで蔡が過ごしたいわき市での活動を紹介する。このセクションでは「地平線プロジェクト」や「万本桜プロジェクト」など、蔡が市民の人々との交流し対話をしながら行ってきたプロジェクトを、写真やビデオと共に紹介する。
「宇宙」という天文学的なスケールの視野を持つ一方で、その土地に根付いた文化風俗、人々の思いや歴史にも寄り添う「ローカル」さ。蔡の眼は「宇宙」をとらえ、その足は「ローカル」の上に立つ。そんな風に感じた。
展覧会概要
【おまけ】512cafe&grillでいっぷく
展覧会前にミッドタウン近くにある「512cafe&grill」でランチ。人気のパンケーキで糖分と幸せを摂取。
512cafe&grill
東京都港区赤坂9-5-12パークサイドシックス A棟1F
TEL:03-5772-1180
公式HP:https://512.tokyo/
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