武相荘とは
白洲次郎(1902-1985)は、戦後日本の実業家・外交顧問。吉田茂の側近として憲法改正や占領政策に関与し、GHQに対しても毅然とした態度を貫いた。それは、GHQ側の印象が「従順ならざる唯一の日本人」と表したとの逸話にも表れている。英国留学経験があり「日本で最初の紳士」と称されることもある。
その妻である白洲正子(1910-1998)は、樺山伯爵家に生まれ、幼い頃から能を習い、女性として初めて能舞台に立つ。戦後、小林秀雄、青山次郎らと交流し、文学、骨董の世界に踏み込む。多くの著作を残した。

そんな2人が暮らした邸宅が、この「武相荘」だ、。「武蔵」と「相模」に接する立地と、「無愛想」をかけた、白洲次郎の機知に富んだネーミングが、なんともこの夫婦らしくてかっこいい。
武相荘は、そんな2人の邸宅をミュージアムにして、2001年に開館。2人が愛用した品々や遺品などを展示している。館内は撮影NGなので、展示作品の様子などはないが、気の利いた滋味深い品が所せましに並んでおり、圧巻。
今回の展示では、正子が着用したイヴ・サンローランのオートクチュールの服も展示されており、純和風ない画の中にサンローランのスタイリッシュな服がモダンで、正子の生き様、美意識を痛感する。


骨董市
武相荘では定期的に骨董市が開催されている。食器類、家具、調度品、茶道具、おもちゃ、衣類、アクセサリーなど様々。
朝10時の開館に合わせて訪問したけど、開館前にすでに十数人の行列ができていました。


ご両親が茶道具屋をされていたという女性の方が、茶碗、茶筅など茶道具類を販売していましたが、何とそこには枝炭が!!!ちょうど2月のお稽古の時に先生が「枝炭は高い」ということを仰っていたことを思い出し、お店の方にいくらか尋ねたところ、2000円との返事。
2000円が高いのか安いのか分からず、先生にLINEで聞いてみたところ「お買い得」との返事があったので、先日先生のお宅で開催されたホームパーティーのお礼として購入。

逃した魚は大きかった…のか?
さまざまなお店をプラプラ見ている中で、ある1つの本が私の眼を捉えて離さなかった。
篠田桃紅の『墨いろ』のサイン本だ。
篠田桃紅は、私にとって白洲正子と並んで憧れる人物だ。書道家で近年東京で開催された回顧展で衝撃を受けた。(その時の展覧会のレビューは下記の記事をご覧下さい。)
そんな私の憧れの人物のサイン本が出ている。お店の人に値段を聞くと、答えは「3万円」。
全く手が出ない金額ではないが、自分の経済力から考えて単行本1冊と考えると「高くない」とは言えない。でも、だからといって篠田桃紅の本物の作品を手に入れることができるかと言えば、それも程遠い夢だ。桃紅のサインを持つことができるのなら3万円は安いとも言える・・・・。
持ち合わせもなく、カードも使用不可ということだったので、とりあえず一回考えますと言って、展示を見て気持ちを落ち着かせる。
でもやっぱり「篠田桃紅」と出会ったと思ったら心惹かれる。意を決して、展示を見終わった後お店に戻ったら、すでに売却済とのこと。
悔しいような、ほっとしたような、でもやっぱり口惜しいような…。
ちなみに帰りの電車の中で「篠田桃紅 サイン本」と検索すると他にも出てくる。しかも、同じ書籍、同じ版なのに、骨董市で観たサインは「桃紅」だったのに、ネットでヒットしたサインは「篠田桃紅」とフルネームだった。
どちらが正しくてどちらかが偽物なのか、あるいはどちらも本物なのか、もしかしてどちらも偽物…??骨董の世界は改めて知識と嗅覚がモノ言う世界だと、その洗礼を浴びました。
逃した魚は大きかったのか、そうでなかったのか。謎は深まるばかり。
カフェでいっぷく
せっかくなので、武相荘に併設されているカフェでランチ。

ランチメニューの種類も豊富で、他の方が頼んでいるのを見ても、どれもおいしそう。さすが美食家である次郎・正子のミュージアムカフェなだけはある。
白洲家にちなんだメニューもあって、白洲家にお邪魔した気持ちで楽しめる。

どれもおいしそうだったけど、今回はチキンカレーを注文。次郎はカレーもフォークで食べていたそう。

「日本人」としての矜持を貫き、世界に知らしめた次郎。日本の美を追求した正子。都会の喧騒から離れて、そんな2人の生き様、美意識に触れた1日でした。
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